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【2020/05 命令】③

俺たち、とあえて書いたのは、今はこの父親、父さんとおれ二人きりの家族だからだ。母親はおれが中学の時に病死してしまった。もともと循環器系の持病があったこと、随分無理をして生み育ててくれていたことは亡くなった後で知った。母親が死んでからはオヤジの…直人さん夫婦のところに預けられた。 ユカもおれと同じ頃あの夫婦のところに来た。ユカは所謂家出少女だった。もとは由美子さんがやってる芸能事務所の入所希望者で、入所基準には十分達していて是非にと寮を用意していた。が、親の許可はとったと偽って上京してきたためトラブルになり、由美子さんの一時預かりになったのだった。そしてそのままずっとあの家にいる。 話を戻すが、父の罪状は銃砲刀剣類所持等取締法違反、世にいう銃刀法違反である。拳銃の単純所持によるもので、団体の活動として行われた場合は1年以上15年以下の懲役となる。父は幹部の椅子を条件にオヤジの身代わりになって7年入ることになった。入ったのはおれが30になった頃なので、出所が近づいている。もうすぐ還暦だ。 このタイミングで周囲がざわつき出したのは何かあるような気がして、本人に先ずは訊く必要があった。 「直球で訊くけどさ、なんか急に怪しい動きが出てきてて、父さんの出所に絡んでなんかやろうとしてるような感じがあるんだけど、心当たりない?てか本当に教誨師さんやおれ以外とは接触してないんだよね?中で変なヤツとつるんでないでしょうね?」 「えぇ…なんだよ久しぶりにあったと思ったら尋問かよお、なんも知らないよおれだって」 顔を前に近づけて父さんの目を見る。まだ目は赤く鼻をぐすぐすさせている。だめだ、笑いそうになってしまう。笑うのを堪えていると父さんも吹き出した。 「そんな暇ないよ、なにげ真面目だそおれ。刑務作業だって割と楽しく集中してやってるし、運動時間はめいっぱい有効活用するし、自由時間もやること決めてるからひとりだしな」 「自由時間って何してんのさ」 「それがさ、聞いてよ。小説書いてんの」 意外だ。でも家に居た頃もよくひとりでクルマ弄ってたりしてた。飲む打つ買うということもしない人だったので真面目といえばそうだ。稼業がちょっとアレなだけで、上に忠実で下にも気が利く、基本的には只の気のいいおっさんではある。 「いつから」 「先月くらいかな。本読む楽しみ知ったら只読むだけじゃ物足りなくなって、そっから想像膨らませて勝手に書いてんの」 「へぇ、二次創作じゃん」 父さんはキョトンとして「なんだいそりゃ、にじ?」と首を傾げている。ユカの悪い影響が出るとこだった。 「いや、まあそれはいいよ。父さんが知らないならいいんだ。出所したらその小説読ましてよ、読んでみたいから。あと、なんか出所したら欲しい物とかない?」 「え~恥ずかしいなあ読まれるの。てか今のおれ浦島太郎みたいなもんだよ?とりあえずスマホの使い方教えてよ、面白そうだから」 あとは時間いっぱいまで他愛のない、互いの生活であったことを時間いっぱいまで話した。 「じゃあふみ、仕事がんばれよ」 「うん、じゃあね、また」 父さんは何でも正直に話してくれるのに、おれはまだ言えてない。表向き由美子さんの会社の社員として籍を置いたまま、実際には直人さんの身辺警護していること。バンドマンはいいけどヤクザはだめだと言われたのに結局ヤクザになったことも。

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