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【2020/05 炬火】⑩
そういうものなのか。まあ、そりゃあ要人扱いにはできないのは、そりゃそうなんだろうけど。
「…そういやお前、前は第7機動隊で、銃器レンジャーだったんだよな。銃器の取扱は下手すりゃ向こうより慣れてるんじゃないのか」
「どうでしょうね、銃器を使用した事件…人質ろう城事件なんかの救出のための部隊なので備えて訓練はしてましたけど、別に実際に自分らは撃ってやっつけるわけじゃないですよ…」
飯野さんは天を仰いで「そんなもんだよなあ」とぼやいた。できれば事が起こる前にどうにかしたいという気持ちはやはりあるんだろう。
「当時藤川玲が住んでいた物件は現在、藤川家で里子で育った大石悠が住んでいる。片岡の奴がもし藤川の現在の住居を知らない場合、そこが狙われる可能性もあったので警戒にはあたらせてはいた。しかし今回実際に発砲があったのが職場で建物も目星がついていたということは、現在の住居も知られている可能性は高い。新宿の方に連携したのでそっちも警戒にあたっているはずだ。場所柄ことが大きくなると関係してない団体なんかにも迷惑がかかる」
確かに、そんなことなったら面倒だ。只でさえ治安のいい場所じゃないし。
「じゃあ、先生の身柄を保護するなり警護することもあり得るんですか」
「いや、そこまではしない。次の課題は何処で誰が狙われるか、本店の四課が予測して、その地点の管轄で動いてもらわないと。うちはあくまでウチのシマじゃないことには結局何もできない」
なかなか思うようにならないものなんだな。
「ところで、話戻るんですけど、飯野さんは藤川先生の親御さんが相談に見えた時ってここの署だったんでしたっけ」
「いや、来たのはお前の父親が働けなくなる少し前頃だから、そのもうそれよりは少し後だ。只、ギリギリ藤川玲が新宿に引越す前でもあったからまだウチでマークしてる次期だった、お前の父親とのつながり、事件のこともこのファイルに記載があった」
ああ、飯野さんも事件のことは、それまでそんな詳しくは知らなかったのか。うちの親も割と親しかったはずなのに、話してなかったんだな。
「でも、情報もらってるのに全然動いてなかったんですか」
「いや、正直、学者という職業柄、冠婚葬祭で同席する機会でもなければ接触できる機会がない。そういう界隈から事件死や事故死が出ない限り世話になることもないしな。そこでお前の父親が死んだ時、職業柄つながりの重要さも承知しているだろうし義理堅い真面目な人間ではあるから来ないわけがないと踏んで、お前の親の葬儀をきっかけに直接近づいて本店四課に報告した。個人的な付き合いもそこからだ」
まあそれもそうか。教員やって剖検やって研究やって、監察医務院行ったり、医療法人の経営に関わってたりしてて、おまけにそれ以外の部分についてなんて「知ってどうすんの」とまで言う人だもんな。
「結構飯野さんはプライベートでも藤川先生とは付き合いあるんですか」
「いや、おれ自身は時節の挨拶やなんかで繋がりを保ってた程度で、お前の親の葬儀からは特に直接会ってどうこうってのはつい最近までなかったな。藤川玲からお前のことが訊きたいと言われて、その時大まかに話して、ついでに写真を預けた。それだけだ」
なんだ、じゃあ、今回の件は直接ウチには関係しないし出来ることもなくて、飯野さんもそんな深い付き合いでもないってことか。
「おれのことって、何処まで話しました?」
「うーん、おれもお前の親から伝え聞いてた範囲で、概要だけ流す程度だけだから、そんな具体的には言ってないな。お前の親だってそんな詳細には話さなかったからな」
じゃあ、先生が聞いたのは高校時代のあれだけか。ある意味良かった。
…でも、そう思った瞬間、1つ気がついてしまった。
先生もそう思っているのかもしれないということだ。
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