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第5話

 家に帰って、どうにも引っ掛かっていることを解決しようと俺は努力していた。  利休先輩の顔に見覚えがあるというか、似てる奴を知ってる気がするというか……。  高校の中にはそれらしい人物にまったく心当たりがなかったので、小中学校の卒業アルバムを取り出してみる。  パラパラと頁をめくってみたがどうにもピンとこない。俺はリビングに降りて棚から自分の家のアルバムを取り出した。  半ズボンに白のタンクトップのいかにもガキ大将の俺の姿。よく陽に焼けている。にかっと笑った前歯が欠けていていかにも間抜けそうだった。我ながらちょっとげんなりする。  幼い日の同級生の中にも利休先輩に似た奴はいないみたいだった。さすがにそれ以上昔のことだと自分の記憶もあいまいだ。 「あんた、なにやってんの。もうすぐ食事なんだからテーブルあけなさいよ」  母さんがお盆を手に文句を言う。  俺が貰ってきたキュウリが酢の物になって皿の上で輝いていた。うまそうだ。 「うーん。確かにどっかで見た気がするんだけどな」  言いながらさらに別のアルバムを取り頁を繰った俺の視線は、あるものの上に止まっていた。 「これだっ!」 「なによ、突然。うるさい子ね」 「これっ。このぬいぐるみ。でもさすがにもう捨てちまったよな」  興奮しながら残念がる俺をいなすように、母さんはアルバムを覗き込んでなんのことはないと言い放つ。 「あるわよ。たぶんガレージの大箱の中に。古くても思い出深いものはたいていあそこに突っ込んでるでしょ。あんたそのぬいぐるみ一時期すごく気に入ってたんだから」 「そうだっけ?」  幼稚園の頃の記憶なんて朧だ。 「そうよ。引きずり回すもんだからボロボロで。サッカーに出会ってからそっちにあんたの意識が向いて、おかげでその子は命拾いしたのよ」  言われてみるとなにかがじわりと目蓋に浮かんできた。  そうだ。俺はこのぬいぐるみと友達だったのだ。ふかふかぷよぷよした感触に触れると安心して眠れたのだ。  どうして忘れてなんていられたのだろう。 「俺ちょっとガレージ行ってくる」 「ええ、なに言ってんの。これから夕飯なのに」 「後で食う」  母親の不満の声を背に、俺は嬉々としてガレージに向かった。そうして利休先輩に似たぬいぐるみと久方ぶりの対面を果たしたのだ。

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