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第9話
次の日から学校で僕の噂が出た。
「園芸部のデブ、ホモなんだってよ」
「ホモって言っちゃまずいらしいぞ。ゲイって言うんだよ」
「どっちにしろやばいって。おかしいよな」
「おかしいからいつも一人でいるんだろ」
ひそひそと囁かれる噂話。
僕の胸は傷ついた。
噂を流したのはきっと先輩たちだ。
そう思ったらがっかりした。最低の最低だ。
その後しばらくは侮蔑といじめでいじられた。僕が怒ってバレンタインデーのお返しを突き返したりしたから、反感を買って余計ひどいことになったんだと思う。
園芸部は三年生の先輩が卒業して僕一人になっていた。部員を増やす努力もしなきゃいけない。なにより活動自体をしなきゃいけない。
でも、いじめのせいで園芸部の活動はあまりまともに出来ていなかった。
リアルの陰口だけじゃなくSNSで悪口を広められるのも痛かった。相手が弱いと思うと人間ってさらに残酷になるみたいだ。
僕はゲイでデブだというだけで迫害された。
そういうことで差別するのはいけないって世の中的には言ってるけど、実際にはやっぱり理解できない人は多いし、面白がってる人もいる。いじめを楽しんでいる人もいる。自分たちと違う人間はいじっていいと思ってる。
それらの攻撃で僕の心には深い深い傷が残った。
ある時花壇が荒らされた。何の罪もない花たちが、弱くて卑屈で浅はかな僕のせいで無残に散らされていた。先輩たちが卒業の記念にとせっかく植えて行ったのに……。
それが引き金になって、今年の一学期は不登校気味で、行っても保健室登校だったりした。
花壇の事件があったんでいじめについては先生たちの耳にも入っていて、僕は腫物にでも触るように扱われていた。
発端は自分がバレンタインに先輩にチョコレートを上げたりしたからだし、そう考えたら自業自得とも思えた。
だからずっと自分で自分を責めていた。
いじられてもしょうがないような気がしていた。
でもやっぱり、ここまでの悪意は理不尽なことだ。卑怯なことだ。
だから負けたくないと思って頑張ったんだ。
中間テストが終わった日の午後。久しぶりに花壇に立ち寄った。それまでずっとまともに手入れをしてなかった。
そんな花壇の端っこで、すみれの葉っぱが大きくなっていた。すみれってとても小さい花だけど結構強いんだ。ちっとも構ってなかったのに自然ってすごいと思った。
すみれの花を綺麗に咲かせてあげたくなった。
僕はまた園芸に没頭した。
その頃にはいじめは急激に下火になっていた。市内の他の学校でいじめ自殺が発覚して、先生方がみんなピリピリしてた。
いじめてたほうもまずいと思っただろうし、根本的に飽きたのかもしれない。遠巻きに見ていた人たちも噂しなくなった。みんな勝手だ。
僕は毎日花壇にむかい、さまざまな苗を植え水をあげた。
日に日に育っていく花や野菜たちに語りかけて、自分の心を癒していた。
特に野菜は僕の親友だった。
すくすく育っていくキュウリやナスを見ていると、生きるってすごい。強くて、健気で、大変なことなんだと思えた。
それでもなかなか調子は出なくて、成績も振るわないまま一学期が終わった。
噂はなくなったけど人の眼はずっと気になってた。人が信じられなかった。弱い自分が情けなかった。とても苦しかったよ。
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