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第16話
俺の手は白シャツのボタンにかかる。一番上を一つ外した。
喉元がごくりと動いたのを見て、思わずそちらに指が泳ぐ。
小さくて丸い尖り。喉ぼとけの感触を確かめながら複雑で切ない気分になった。
利休先輩はちゃんと男なんだよな。それでもって俺も男で、でも恋人同士で……。
種の保存がどうとかいう奴らからみたら滑稽なのかもしれないけれど、先輩を好きなことに俺は違和感を感じていなかった。
それどころか、ほんのりとした幸福感に満たされているのだ。
当事者の苦悩も知らずホモだとかゲイだとか馬鹿にする奴ら。人を差別したり非難したりする奴ら。調子に乗っていじめなんかする奴ら。むしろ怒りが湧く。
ゲイだったらいけないのか。
男同士で愛し合って何が悪い。
幸せになって何が悪い。
当人同士が真剣なら他人には関係のないことだ。
俺は利休先輩に惚れたのだ。
先輩だって俺を好いてくれているのだ。
両想いの恋人同士なのだ。
気が付けば、先輩の喉ぼとけに俺はキスをしていた。そのまま唇は首を這い進む。
先輩の髪の匂いを嗅ぎながら、俺は首筋に所有の牙をつき立てていた。
「な、なにっ」
びくっと肩を竦め涙目になって問いかけてくる。
自分でも驚いたことに、俺は吸血鬼のような愛撫をしていたのだった。執着の凄まじさに我ながら引いてしまう。
「噛んじゃった」
「え、」
「すいません。俺、今かなり興奮してて」
血が滲むほどではなかったが肌が赤くなっている。ますます興奮する眺めだ。
白い肌に残されたかすかな歯形。
俺からの所有印。
恐縮する俺を見て先輩はこわごわと聞いてくる。
「噛むとかって……、こういうこと、みんなしてるの」
「え、ああ……、多かれ少なかれ、程度は違えど、してるでしょ」
参った。先輩の初心さに俺はやられる。
「怖かったですか」
「怖い……かな。でも、那須くんだから怖くないよ」
またしても魅力的なはにかむ笑顔。
信頼を示して縋りつく指先が愛おしい。その指先を思わず握り締めていた。
「すんません」
「僕は那須くんを信用してる。誰よりも君のことが好きだから……」
だからいいのだと、許してくれる。
感動だ。以前に比べてそういう感情をますますはっきり出してくれるようになった。
怯えが減ってきているのだ。
利休先輩も恋愛に前向きになってくれてるのだ。
俺は嬉々として先輩のシャツを脱がせていく。
不思議なほど抵抗はなかった。シャツの袖から腕を抜く動きにも協力的だ。
けれど見やれば、先輩は強く眼をつぶっていた。カチカチに緊張しているのが分かって、切ないほど愛しくなる。
それでも俺に自分を預ける覚悟なのだ。
「やさしくしてるつもりだけど……。大丈夫ですか」
「うん。気を使ってくれて、ありがとう」
シャツを全部脱がせてから今度は下着もまくり上げた。
先輩の喉もとが大きくひとつ上下する。
晒された胸は白くて眩しい。乳首は小さくて赤くて美味しそうで、俺の欲情の強さを後押しする。
「先輩、乳首触っていい?」
「え……、は、恥ずかしいよ」
「大丈夫。ここには俺と先輩しかいないから、恥ずかしくなんてないっすよ」
強引に説得する。
「それに、気持ちいいはずだから」
そして指先に乳首を捉えた。
「…っ」
声を殺すのがかえって色っぽい。
俺は、痛くないように加減をしながら乳首を揉み上げた。
少しづつ反応してくる。
かなり感じやすいのかな。それはそれで触りがいがあるというものだ。
「あ、あっ、……あっ」
俺の親指と人差し指の挟む動きに連動して、素直な声が跳ねる。
「どうしよう。こんなの……変、だよ……。あっ」
「嫌ですか。やめますか」
「………」
先輩は答えなかった。
やめるか続けるか。その選択を俺は先輩のほうに委ねている。
俺は自分の卑怯さに申し訳なさを感じながらも先輩を追い込むことをやめられなかった。
「どうします」
先輩に欲しがられたい。その切望が俺をわがままにさせている。
ぷっくりと立ち上がった赤い乳首をくりくりといじりまわし、それから、親指の腹で押しつぶす。
「んっ」
「これ、よくないですか」
「あ、あ、……よくな…い。ん、ん……ああっ」
「嘘つかないで。かわいい声が出てますよ。感じて、もっと触って欲しいって、そういうやらしい声」
「い…意地悪。那須くんのバカ」
キュッと視線をきつくするが、乳首への攻撃を受けてあっけなく撃沈した。
「『やめないで』っておねだり出来ますか」
先輩のかわいさにやられっぱなしの俺は、先刻まで自分をマゾなんじゃないかと思っていた。だが、いざ先輩とことに及んでみると、俺は自分にサドっけがあるのが実感できた。まあ、人間どっちの資質も持っているのだろうが。
「おねだり……?」
「そうです」
ソファーに先輩の身体を押し付けるようにして、両方の乳首を一度に刺激した。
なにかをこらえる低いうなりが可憐な唇から漏れ聞こえる。
「うっ…く。な、那須くん……」
「乳首大きくなってる。感じてくれてるんですね。うれしいっす」
自分勝手で急いた扱いに先輩は流されてくれている。
「那須くんがうれしいなら、あっ、僕も、うれしい……」
スタッカートが入る甘い言葉に俺の胸は躍った。
初めてで訳が分からないのかもしれない。
もしかしたら本当は気持ちよくないのかもしれない。
けれどうれしいと言ってくれている。その健気さに俺は痛く感動した。
「あのね、僕、おねだり……してみるよ」
たどたどしい声。
「那須くん、『やめないで』……」
乳首をいじるのを続けて欲しいという望みに、俺の心臓は早鐘を打った。
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