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第17話

 かわいいおねだりをした後、先輩はハッとなって顔を真っ赤にする。 「あ、僕ってば」  自分で発した台詞の赤裸々さに気づき正気に戻ったのだ。 「こんなこと言わせて、那須くんなんて嫌いだっ」  涙を滲ませる瞳が俺を責める。 「そんな。すいません、調子に乗りすぎました」 「だめ、許さない」 「お願いします。怒らないで下さい」 「やだっ」 「そんなこと言わずに」 「やだったらやだっ」  はたから見たら恋人同士の痴話げんかだ。先輩とこんな甘いやり取りが出来るなんて、関係性が進歩しているということだろう。俺はうれしくてたまらなくなった。  けど、機嫌を損ねてしまったのはまずかったと思う。  乳首を求める俺の指先は行き場を失くしていた。残念過ぎる。 「ごめんなさい。機嫌直してください」  利休先輩はぷっと頬を膨らませていた。その姿は、それこそ天使を描いた一枚の絵画のように高貴で純朴でかわいらしい。  不機嫌そうだったが、それでも小さい声で「怒ってる訳じゃない」と言ってくれた。  よかった。せっかくここまで触れ合えたのに、打ち止めは辛い。先輩の寛容さに感謝する。  でもこの様子じゃまだ挿入まではさせてもらえないだろう。今日も我慢だろうか。そう思うとため息が出そうだ。  それでも、いやそれならせめてもう少しだけ……。 「俺、先輩にお願いがあるんです。今日はせめてあと少しだけ願いを叶えさせてくれませんか」 「なに。……どんな事?」  警戒しながらも、根が真面目で優しい先輩は真摯に話を聞いてくれる。 「触りたいとこがあるんです。二の腕の付け根んとこ」  少したるんでるとなお良いと期待してる俺は、立派なフェチだ。 「ここ?」  不思議そうに俺を見て、腕を肩の高さに水平に上げてくれる。  晒された腋には腋毛がまったく生えていなかった。成長のたどたどしさを見せつけられて、さらに好ましく思う。  先輩は態度と言い、仕草と言い、その体躯と言い、どこか年齢より幼い感じがするのだ。そしてそれが俺にはたまらなかったりする。  希望を許されて、俺は堂々と手を伸ばすと二の腕の付け根をそっと摘まんだ。  指に挟まる脂肪の感触。  なんて気持ちいいんだ。 「ああ、やっぱり。ぷにぷにして気持ちいい。利休先輩みたいなのをもち肌っていうんですね。最高の触り心地です」 「ぷにぷに、もち肌……あんまりうれしくないよ」 「どうしてですか。褒めてるのに」 「どうせ僕はデブだから」  いじいじと空いているほうの手の爪を噛む。 「いいんですよ。それも個性の一つです。俺はそういう利休先輩が大好きなんです」  言いざま、先輩の腕をその位置のまま拘束した。今度はそこに顔を寄せて行く。  ぷにぷにした二の腕の肉を唇で味わいたいと思ったのだ。 「外で作業した後だから汗臭いよ」  慌てて抵抗する先輩だったが、俺に腕を掴まれているので逃げ出すことは出来なかった。 「かまいませんよ」  俺はそのまま顔を進め、ぷにぷにした箇所に唇を押し付ける。最上級にやわい感触。  なぜだかミルクのような匂いすら感じられる気がする。まるで赤ちゃんの匂いのようだ。 「あ、なにするの……」  先輩の震える様子に俺は調子に乗った。  ちょっと吸っただけなのに鮮やかにキスマークがつく。 「凄い眺め」 「え、なにが凄いの?」 「先輩が俺のものだっていう証が刻まれたんですよ。いい眺めです」  上機嫌の俺の前で先輩は自分の脇の下を覗き込む。衝撃を受けたようだった。 「赤い…」 「先輩の肌は白くて綺麗だから、赤がすごく映えますね」  俺は興奮して浮かれていた。  いっぽう先輩はじっとその証を見つめている。 「どうかしましたか」  先走りすぎただろうか。一方的に俺だけ盛り上がっているのだろうか。心配になった。  しかし発せられたのは予想外の確認の言葉だった。 「僕……那須くんのものになっちゃったの?」 「え、あ、はい。こんなの図々しかったですかね。すんません」  迂闊だった。  先輩の様子を伺うよりも自分の欲望に正直になってしまっていた。  まだまだ身分不相応な俺にしては、やり過ぎだったかもしれない。  猛省する俺は深く深く頭を下げる。 「そうなって欲しくてつい無茶しました。すいません」  けれど先輩は怒ってはいなかった。むしろ微笑んで俺の我儘を受け入れてくれていたのだ。 「所有印か……。そういうのってうれしいものだね」  好意的な感想に俺は眼が眩むほどの感動を覚える。  やった。  ここまで許されているのなら上出来だ。 「先輩、大好きですよ」  出来ればこの先も求めたいところだが抵抗されてもいる。キスと愛撫ですでに先輩は満足しきっているようにも思えた。  俺は愛しい人を間近に見つめて、究極につらいけれども己の欲望を我慢することにした。  少しずつ少しずつ。  触れ合っていければいい。  愛し合っていければいい。  夏休みはまだある。その間は心置きなくこの部室で二人の時を過ごせるのだ。急ぐことはない。かなりじれったいが先輩を怯えさせないように、段階を踏まえて進んでいければいい。  先輩のペースを重んじる。信頼を裏切らない。そういう度量の広い男に俺はなるのだ。  それでも……。

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