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第19話
怯えさせてしまった。
大きいのは自慢であったのだが、それが障害になるなんて思いもよらなかった。
あの時の、ビビった先輩の見開いた眼を思い出すと、俺は今でも落ち込んでしまう。
利休先輩は顔の前に両手を広げて俺の姿が見えないように隠していた。
「そんな、そんな大きいの、入らないよ」
怖がってる様子は震えるうさぎみたいだった。
しかし、指の隙間からしっかり見ていた。見て、俺のでかさに戸惑っていたのだ。入るか入らないか吟味していたのだ。
俺は言った。
「今日は入れないっす。でも、もう我慢できねぇんです」
俺はその場でそのままチンポを強く握り締めた。急いで先輩に背中を向け、リノリウムの床に胡坐で座り込んで擦り始める。
孤独なオナニーだった。いや、オナニーとは本来孤独なものだ。
「………那須くん、ごめんね」
気を使った先輩の声が背後からする。
その声さえおかずにして俺は行為に没頭した。
それこそ覚えたての猿みたいに激しく右手を動かす。
背中が小刻みに揺れて、馬鹿みたいだと、滑稽だと、自分を嘲る。
放出したいという純粋な欲望は俺の余裕をどんどん失くさせる。
「くぅ……うわあっ!」
俺は恋しい人に背後から見守られて、一人寂しく発射していた。
心地良い開放感の後に訪れたのは、果てしのない虚脱感。そして後悔。
ああ、むなしい…。
先輩は肩越しにティッシュの箱を差し出してくれた。
「これ使って」
「ありがとう…ございます……」
思わず硬い声になっていた。
「ごめんね。僕……怖くなっちゃって」
さっき、俺の一物に驚いて先輩は大声を上げていた。
大げさに叫んでその場で委縮していた。
拒絶に近い反応だった。
そのことを謝って来たのだ。
「いや、俺こそすんません。あの……、これでも、いきなりする気はなかったんです、ホントに。けど……、急にでかくなっちゃってて。その……いい男ぶって我慢しようと努力したんだけど、やっぱ無理で……。もう、出すしかなくて………」
しどろもどろにそこまで言って、俺は破格のむなしさにため息をついた。
手早くティッシュで下腹を拭い、床に飛び散った精液もふき取る。
身支度を整えながら俺は力なく立ち上がった。
「一人で盛っててみっともなかったですね。呆れないで下さい」
先輩は言葉を選ぼうとし、選びきれなかったらしくなにも口にしない。
獣のような俺を見てしまったので引いているのかもしれなかった。
「すんません。今日はもう帰ります」
格好がつかなくて先輩の顔が見れなかった。背中で語る。
先輩のほうもどうしていいか分からない様子だ。
すんげぇ気まずい。
「明日。部活休みます」
「え、那須くん」
俺は本来楽天家でなんでもかんでも前向きなほうだった。能天気とも馬鹿ともいう。
そんな俺が、めったにないことに激しくしょげかえっていた。
「今日はすいませんでした。失礼しますっ」
そんな訳で、己の行動の情けなさとみっともなさとを嘆きつつ、傷ついた心を抱えて部室から走り去っていたのだ。
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