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第21話
勢いよく部室の戸口を開け放ち、直角に腰を曲げたお辞儀でもって謝罪する。
「昨日はすいませんでしたっ」
先輩はどんな顔をしてくれるだろうか。いつものようなエンジェルスマイルを見せてくれるだろうか。
内心ドキドキしながら顔を上げる。
そんな俺の眼に飛び込んできたのは、またもや衝撃的な光景だった。
先輩はソファーの上で四つん這いになっていた。
デジャヴュ。
制服のズボンは足元に落ちており、下肢はむき出しだ。
尻の間にはなにか挟まっている。
今日はキュウリじゃない。鮮やかな濃い紫色。ナスだ。
ナスが入っているんだっ。
「一人でなにしてくれちゃってるんですかー!」
俺は衝撃と嫉妬と怒りとで大声になった。
自分の激情に慌て、急いで部室の扉を閉めるとソファーへと駆け寄る。
びくっと震えた先輩の身体からナスが押し出された。
それは、ソファーから床に転げ落ちる。
ナスの濃い紫は極薄のピンクのコンドームと相性のいい色合いだった。
これが先輩の中に入ってたのだと思うと、憤りを押しやってとてもいやらしい気分になる。
先輩は上半身を起こすと身を縮め、ソファーの上で体育座りになって自分の身体をぎゅっと抱いた。
珍しく、なじるように唇を尖らせている。
「那須くん。きょ、今日は来ないって言ってたじゃないか」
「言いました。言いましたけど」
だからってこんなことしてるなんて思わないだろ、普通。
見開いた俺の眼を見つめ返して、先輩は困ったように顔を歪ませる。
「ううん、ごめん……ごめんね。僕……」
生まれたての小鹿並みにぷるぷる震えている。
俺は聞いた。
「なんでです。なんでこんな。今度はナスだなんて……。俺って言う恋人がいながらなに考えてるんですか」
詰問口調になるのも無理はないだろう。
好きだって言ってくれたのに。那須くんだから怖くないって言ってくれてたのに。所有印をつけられてうれしがってたのに。
なんでなんだ。
俺って恋人がいながら野菜オナニーだなんて。
畜生。
俺はナスに劣るのか。
「ごめんね、那須くん。ごめんね」
先輩は謝り続ける。そして俺の怒りの源を察したのか、思い切った口調で白状したのだ。
「僕、……な、那須くんのおちんちんが入るように……練習してたんだ」
「俺の」
俺のおちんちん。
先輩の口からその言葉が出るだけでエロい感じがした。
真摯なまなざしでもっての告白はさらに続けられる。
「那須くんのすっごく大きかったから、入れるのは無理だと思ったんだ……。でも、やっぱり欲しいから……。那須くんに抱いて欲しいから……」
だから練習してたんです。ナスで練習してたんです。
理由を知れば怒ることも出来ない。
無性に気が抜けた。
真剣なのは理解できるけど方向性が大きく間違っている気がする。
天然なのは知っていたがこれほどとは思わなかった。
だからって誰か他人を相手にされたりしたら大変なことだ。人間不信の利休先輩だからそんなことはあり得ないが、やたら心配にもなった。
この人の発想はやばい。極端すぎる。
それに、野菜に対する親しみが強すぎる。
どう接したらいいのだろう。
どうしたら俺は野菜に勝てるのだろう。
先輩の顔を見つめながら俺は弱り果てていた。
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