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第22話

 俺の脱力をどう思ったのか知らないが、先輩の言葉は切々と続く。 「那須くん、今日は部活休むって言ってたでしょ。だから……僕、一人だし、寂しかったのもあるんだ………。それに僕、那須くんのこと好きだから、那須くんのこと思い浮かべながら一人でしてた。勝手におかずにして………ごめんなさい」  しゅんとなってソファーの上でもじもじしている姿はどうにもかわいらしい。  シャツの裾から覗く素肌の太もも。  愛くるしい膝小僧。  華奢なくるぶし。  足元にはナス。  それがさっきまで先輩の中に入っていたのだと思うと、俺は鼻血が出そうだった。  そうか、そうか、そうなのか。  ナスを俺のだと思ってオナニーしてたんだな。  先輩のとんでもない行動を俺は許す気になっていた。 「俺こそごめんなさい。いきなり怒鳴ったりして……、先輩の気持ちや理由も考えずにすいませんでした」 「許してくれるの?」 「もちろんです」 「ほんとに?僕のこと呆れたり嫌いになったりしてない?」  少し暗い眼の色でおずおずと確かめて来る。 「せっかく好きになってもらえたのに、こっそりこんなことして……、もう僕のこと軽蔑してるんじゃない」  寂しげな表情で声を震わせた。 「軽蔑なんてしてません。俺は先輩を好きですよ」  今さらじゃないか。  俺ら相当恥ずかしい姿を見せあっているのだ。それでも惹かれ合っているのだ。それは確かなことだと思う。 「大丈夫ですよ。俺は利休先輩が好きです。どんな姿見たって嫌いになったりしません。先輩は?昨日俺はみっともないとこ見せたけど、怖くなったりビビったりはしてないですか」  距離をおきたくなっていたのなら困るのだ。  俺は今までにこんなに心惹かれた人はいない。  こんなに気になる人はいない。  かわいすぎて構いたい。  利休先輩は、いじめなどの影響か突飛な思考に走ることがある。普通ならしないようなことをしてしまう。  危なっかしくて見ていられない。  見ていられないけど見守りたい。 「那須くんの……立派だったよ。凄いなぁ……って感動した。身体も大きいけどおちんちんも大きくて……、ひ弱でちびデブな僕からしたらホントにとってもうらやましいよ」  いつもののんびりさを取り戻し、先輩は感嘆を込めて俺を見つめる。  尊敬と憧れのまなざし。  心地いい。 「いや、そうっすか。照れますね。きっと先輩を満足させてあげられると思うんですけど……。その前に、入れられないと……」  懸案事項。  無理やり入れて裂けたらかわいそうだ。  それによって嫌われたらなお悲しい。 「うん。僕、頑張って鍛錬するよ」  先輩は健気な声でそう言い切る。  しかし気合いだけで解決出来るものでもないだろう。  それにその鍛錬という言葉の意味は、俺を受け入れられるようになるまでナスを代用するという意味と受け取れる。  とんでもない。  俺は野菜へのジェラシーで顔が険しくなるのを自覚した。 「一つ教えてもらってもいいっすか」 「なあに」 「ナス、気持ちよかったんですか」 「え、え、え……」  意地悪な問いかけに利休先輩は頬を染める。 「ナス、ナスは……」  しどろもどろになっているのが本当にかわいい。  だが、正直者の先輩は俺の予想の上を行くのだった。 「滑らかな肌触りで、みっしり身が詰まってて、調度いい……感じだったよ」  使用感をちゃんと説明するという正直さに、呆れるどころか笑いが込み上げて来た。  この人はまったく。 「きっと俺のほうが気持ちいいと思うから、今度は俺としましょうね」  優しく優しく説得する。 「先輩が言った『俺のナス』で気持ちよくしてあげますから」 「……那須くんってば」  恥ずかしがる頬が色鮮やかに赤かった。 「俺ね、ちゃんと先輩を抱きたいんです。優しくして、気持ちよくさせて、傷つけたりしないで、無茶苦茶感じさせたい。その上で、俺も先輩の中に入って気持ちよくなりたい。先輩の手で握って欲しい。それから……」  出来れば口でもして欲しい。  69スタイルなんてのもあるよな。  欲望はきりがない。  言葉は途切れ、俺の焦れた様な沈黙に、先輩は思うところがあったようだった。 「僕に、手でさせてくれる?」  思い切った申し出に俺の心臓は激しく脈打つ。 「先輩、それマジで……」 「那須くん昨日僕のこと気持ちよくさせてくれたでしょ。僕も那須くんに気持ちよくなって欲しいよ」  思いつめたような声が真剣さと緊張とを感じさせる。俺は息を詰めた。  先輩はシャツの裾を気にしながらソファーの上で体勢を変える。俺の制服を摘まんで引いた。  まるで幼い子供が母親の存在を確かめるような拙さだ。  けれど、放たれたのはもっと大人の台詞だった。 「僕からキスしてもいい?」  それはとうぜん大歓迎だ。 「許可を求めなくてもキスしていいですよ」  俺は顔を寄せていく。 「すげぇ、うれしいっす」  むき出しの下肢の肌を白く光らせたまま、先輩は俺に向けて唇を近づけてくる。微妙に卑猥な光景だ。 「前は失敗したから今日は……」  手が伸びて、俺の顔を挟むようにして固定した。  伸びあがって唇をつき出す。  俺は先輩の好きにさせて、キスしてくれるのをただ待っていればよかった。  キスは気持ちよかった。  ふくよかな唇はどこか甘い。  俺は唇を薄く開いた。  舌を滑らす。  気がつけば立場はすっかり逆転して、俺からのキスという形になっていた。先輩が苦しくならないように加減する。あまりがっついているのもかっこ悪いと思った。  先輩はとろんとした眼をして俺の腕の中で幸せそうだ。 「僕こんなにふわふわになっちゃうなんて……、那須くんってキスが上手なんだね。気持ちよくて……酔ったみたいだ」  意識せずに誉めてくれるのがうれしい。光栄だった。  先輩は火照った頬を俺の頬に押し付けて来る。  夢見るような甘くかぐわしい香り。  ぷるんとした素肌の感触。 「先輩、キスありがとうございます。気持ちよかったです」 「よかった……。僕も気持ちよかった」  興奮しているのか、緊張しているのか、声が小さい。  それでも先輩は確かな言葉を発してくれた。 「那須くんが僕のこと好きになってくれて、とてもうれしいよ。今でも夢なんじゃないかと思う時がある。こんな気持ちよくて幸せな気分をくれる君に感謝してる。僕も君を気持ちよくて幸せな気分にしてあげたい」  心を砕いた言葉に俺は感動する。なんて健気なのだろう。 「ありがとうございます。感激です。俺先輩のこと、ますます好きになりました」 「ほんとに?僕も毎日どんどん君を好きになっていってるんだ。怖いくらいだよ」  恋心の熱さと真剣さとをふたりで確認する。  俺たちは互いの背に手を回してしばらく抱き合っていた。

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