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第25話
先輩は俺の腕の中で荒い息を吐いている。瞑った目元から涙が転がり落ち、快感の深さを物語っていた。
「先輩、大丈夫ですか」
「うん……」
「その……よかったですかね」
俺ばっか喜んでるようじゃだめなのだ。利休先輩が気持ちよくならなきゃ。
一応それなりの気を使う俺に向けて、先輩は熱い身体をますます寄せて来た。
「……よかった」
ポソリとした呟き。
視線はどこか落ち着かない。
肌は行為の余韻に火照っている。
唇は淫らに濡れている。
言葉だけじゃなく身体も満ち足りた風情に、俺は安心した。
「もっとよくしてあげたいんですけど……」
欲張りな手が再び思い人の肌をまさぐる。
「あっ」
勝手知ったる領域を、俺は欲情の覚めないままの手で確かめた。
「だめっ。今はまだだめ……。感じすぎてて……辛い………」
拒絶を示して言うのを、俺は複雑な気持ちで受け止める。
こんな美味しそうな人を目の前にしていながら寸止めか。
「利休先輩、俺、先輩と繋がりたいんです。だめっすか?」
俺は抑えきれない興奮に声を震わせていた。
身体の中心に熱が集まって来ている。
先輩は俺の余裕のなさを見て取ったのか、一息息を継ぐと慈悲深い笑みを浮かべてくれた。
「いいよ……。那須くんの好きにして」
恥ずかしそうに、そして厳かに、許可を出してくれる。
俺は感激しながら先輩にがばっと覆いかぶさった。
華奢な足の間に腰を押し込み、脚を抱え上げ、結合しやすい形を取る。
先輩の胸から下腹にかけて汗が浮かんでいるのに気づいて、俺と同じだとなぜだか凄く安心した。
十分にふくらんだ一物を再度取り出し、奥深い秘密の扉に先端を押し付ける。
「んっ」
熱く狂おしい肉の塊におびやかされて、先輩は息を詰めた。脚が竦んでいるのが分かり一瞬どうしていいか分からなくなる。
だけど。
俺の望みは切実だった。
先輩と繋がりたい。
愛し合いたい。
心も身体もひとつになりたい。
ふたりでいっしょに気持ちよくなりたい。
いきり立つ感触ですぼまったままの尻の穴を擦る。
「ああ…」
官能的な声を漏らし、けれど堪えられないといった風に膝を震わせている。
『好きにして』と言ってくれはしたが、初めてのことで緊張しているのは間違いなかった。
怯えも伝わってくる。
このまま先に進められるだろうか。
「先輩、身体の力ぬいて」
「あ、…うん」
健気な返事に俺は甘える。
大事にしたいのに、無理やりにでも奪ってしまいたい。己を突き刺して翻弄して先輩を俺の色に染め上げたい。
沸き上がる欲望を俺は制御しきれなかった。
俺は、激しく硬く勃起したチンポで恋人の尻の穴を開こうと奮闘する。
闇雲に突進し肉の狭間を裂こうとした。
密着した脚と腰は汗でぬめっている。
互いの汗が混ざり合う感覚は淫猥だった。
チンポの先で肉の扉を何度もノックし、どうにか押し入ろうと努力する。
俺もだんだん余裕がなくなり、途中から息が荒くなっていた。
「どうっすか。力……ぬけませんか」
「あ、どうにか……したいんだけど………あ、んん、どうしていいか…分からない……よ」
不意の涙声。
縋りつく指先が俺の腕に食い込んでいた。
無理強いして、先輩の中に性器の先端を潜り込ませていた俺は、途端にはっとなる。
先輩は委縮しているのだ。
気持ちでは応えられても、応えてくれても、身体は正直だった。かたく閉ざされた尻の穴は俺の無体を拒否している。
「痛いですか」
文字通り腰が引けていた。
「痛い…っていうか、無理そう……。ごめん…なさい………」
痛々しくまつげを伏せて謝られては強行突破は出来なくなった。
俺は身を起こし、先輩の身体を優しく抱き起こす。ソファーに背を預けた先輩の頬に軽くいたわりのキスをした。
「先輩が壊れちまったら大変だから、少しずつ慣らしていきましょうね」
「ごめんね、那須くん。ごめんね、僕……」
「謝らないでください。俺が先走り過ぎました。俺こそごめんなさいです」
「好きなんだ。君のこと大好きなんだ……。君の要望通り僕も受け入れたいと思ってる。でも、身体がカチコチになっちゃって……。ごめんなさい」
恐縮しきった吐息が俺の頬に当たる。
謝り続ける顔は真剣で悲壮だった。
「俺、先輩をそんな顔にさせるつもりじゃなかったんです。もっと幸せそうに、気持ちよさそうに、いい感じにしたかったんです。なのに……すんません」
そこで俺はあることを思い出し提案した。
「今度ローションとかワセリンとか用意してきます。それでゆっくり慣らしていきましょうね」
敗因は、ちゃんと調べていたのにことを急ぎ過ぎたことにある。
準備が出来てないのに押し倒した俺が悪かったのだ。
「那須くんこそ、大丈夫?」
「え」
「おちんちん、辛くない?」
そう言えば、俺の息子は勃起したまま行き場を失くしている。指摘され、じんとした痺れがよみがえった。
収まりどころのないそれはむなしくも無駄にでかい。
また一人で始末しなければならないのかと暗澹たる気持ちでいる俺に、癒し系エンジェルボイスが炸裂した。
「僕にさせてくれる?」
「いいんすかっ」
俺の反応は速かった。どくどく脈打つそれを俺は握り締める。
「那須くん好きだよ。那須くんはいつも優しいよね。僕のこととても大事にしてくれて……、とてもありがたい。声も身体も大らかで、僕はそういう那須くんが大好きだよ」
ついでにアレもでかくて大らかで、それが障害になっているのだった。
先輩の手が俺の手に重なってくる。
「利休先輩……」
「僕うまくないけど、心を込めてするからね」
そんな真摯な台詞を吐いて、ふっくらとした手が一生懸命動き始める。
俺は低く呻いて身も心も先輩に任せた。
この先の展望は悪いものではないはずだ。
今日は出来なかったけど、これから二人で努力して乗り越えて行ければいい。
俺達には愛がある。
二人でいれば怖いものなどなにもない。
「先輩、好きっす」
「僕もだよ」
「うれしい。くうっ……」
先輩のマジックエンジェルフィンガーの効果か、到達は速かった。
愛しい恋人の愛撫に導かれて俺は白い液体を迸らせていた。
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