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第29話

 さて、俺たちは考えた。部室のソファーではあまり安定感がない。床でというのもなんだ。うまく繋がり合うためには環境を整えないといけない。  それで先輩の家で、先輩の部屋で、先輩のベッドで、ことに至ろうという結論になったのだった。  そのほうが断然都合がよさそうだったからだ。  先輩の家は共働きで父親は税理士、母親はアパレル関係とのことだった。家にいない時間が多いのだ。  俺のように弟と二人部屋ではどうにもならない。個室である先輩の部屋が行為をするにはふさわしかった。  先日はうまく結合することができなかった。互いの気持ちは通じているのに、身体と行為の流れに余裕がない。  無理に挿入することなど俺には出来なかった。  俺は先輩を傷つけたりしたくない。愛したいのだ。  あの時、先輩は怯えてはいたが俺を望んでくれていた。  俺とのSEXを頭の中で思い描いてくれているのが確認出来たのは、とても光栄でありがたいことだった。  触りっこだけじゃなく、俺とがっつり尻で繋がりたいと思ってくれているのだ。  感情だけでなく肉体的にも欲望的にも、先輩は着実に成長していると思う。  俺は持参したローションの容器を先輩の前にかざした。 「これ使ってよくほぐしますから、大丈夫ですよ。あと、コンドームも持ってきました」  箱ごとのそれを手に持って振ると、先輩の眼がパチパチ瞬きをする。恥ずかしそうに口元を押さえた。 「そんな、そんな大きめの箱ごと持ってくるなんて、なんかやる気満々だね」 「え、そうすか」  先輩との夢の日々を思い描いた俺は準備に抜かりはなかった。  ただ単に俺の性格がおおざっぱなせいなのかもしれなかったが、どうせ使うんだからと個数の多く入った大きめの箱を選んできたのだ。  確かにやる気満々だ。 「先輩こそいつもコンドームどうしてたんですか」 「いつもって……」  155センチの小柄な成りで、とても高校生には見えない姿で、ドラッグストアやコンビニでコンドームを普通に買えたのだろうか。  逡巡する先輩の口を開かせようと、俺は具体的な台詞を放った。 「キュウリとナス」 「っ………そんなに何度もしてた訳じゃないよ」  ちょっと上目遣いで睨んでくる。睨んではいるが俺にはかわいくて仕方がない。 「両親の寝室からこっそり数個……」  以外にも大胆だ。 「ばれてる怖れは?」 「大丈夫だと思うけど……」  心配げな顔になった。こういう顔もかわいいな。俺は心の中で舌舐めずる。 「これからは俺が調達しますんで安心してくださいね」 「那須くんこそどうやって手に入れたの?」 「普通にドラッグストアで買えましたよ」  182センチもあるし体格だってかなりいい。ドラッグストアの店員はなんのこだわりもなく売ってくれたのだ。  それを話すと先輩は本当にうらやましいといった顔をした。 「那須くんは大人っぽいしね。僕もそんな風になれたらいいのに……」  深々とため息をつく。 「そのうち背だって伸びてきますよ。少し運動をして身体を引き締めたっていいし。俺、トレーニングなら一通り覚えがあるから、つきあって一緒にジョギングしたり出来ますよ」  サッカー部を辞めた後も、柔軟と筋トレとジョギングは欠かしたことがない。本質的に身体を動かすのが好きなのだ。 「でも俺、ほんとは今のままの先輩が好きだけど」  俺は白状した。 「今のまま?」 「そうっす。ぽってりしてる先輩がかわいいんです」  二の腕のぷにぷにした柔らかさは魅惑的だった。太腿の感触もたまらなかった。ばっちり俺のフェチ心を刺激した。  利休先輩は今のままで十分愛おしいのだ。  だから成長して欲しくない、変化して欲しくない、そんな風に思ってしまう。でも先輩はそんなこと望んじゃいないだろう。男らしくありたいと切望しているのがじわじわ伝わって来た。 「そう言ってもらえるのはうれしいけど。少しでも男らしくなりたいな。背も伸びたいよ。那須くんに守られるばかりじゃなく、嫌なことも自分自身で交わせるよう、負けないよう、強くなりたいんだ。それには身体も心も鍛えなきゃ」  先輩の眼はキラキラしている。前向きな台詞に俺は感心した。 「今度少し身体動かしてみましょうか」  朝一緒にチャリで登校してみてもいいかもしれない。  二学期が始まったら会える時間が減る分、土日も一緒に過ごしたっていい。いや、むしろ過ごしたい。 「あーあ、夏休みが終わらなければいいのにな」 「ほんとだね。那須くんと会って、今年はすっごく楽しい夏休みになったよ。ありがとう。感謝してる」  ツルツルピカピカの笑顔。か、かわいい。 「俺、先輩の笑顔好きですよ。かわいくて」  ウキウキして素直な言葉が転げ出た。  しかし先輩はちょっと固まる。 「さっき僕は男らしくなりたいって言ったじゃないか。なのにかわいいって……」 「そんなにかわいく膨れないでください」 「だからかわいいって言うのやめてよ」 「事実なんだからしょうがないでしょ」 「………」 「俺の勝ちですね」  いつまでも痴話げんかをしている訳にも行かない。俺は先輩の肩に手を置いてベッドの端に腰かけるよう促した。  隣りに並んで座る。 「機嫌直してください。貴重な時間なんだから」  言いながら俺は先輩の頬にキスをした。  今日こそは繋がり合いたい。 「うん、分かってるよ」  俺の気持が伝わったのか先輩も真剣な眼をしてくれた。  はにかみの奥に情熱的なものを感じるさせる黒い瞳。  たまに見せてくれる色っぽさは、事の成就を期待させる。 「怖くないから、全部俺に任せて」  怯えを払拭しようと精一杯優しい声で囁きかけ、俺は先輩の制服のボタンに手を掛けた。

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