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第34話

 心から睦み合った後で俺たちは大変なことに直面している。 「どうしよう。シーツが……」  利休先輩が泣きそうな顔をして俺を見上げた。  ベッドの上にへたり込んで、心もとない雰囲気だ。  シーツはローションと先輩の精液とにまみれてごわついている。俺はコンドームをつけていたが先輩のはフリーだった。  いかにも情事の後といった乱れ具合。  これはやばい。 「綺麗にしないと」 「取り敢えずは替えのシーツで……」 「でもこのシーツはどうにかしないと」  俺たちの記念すべき貫通式が先輩の両親にばれてしまうかもしれない。 「………」 「………」 「俺、これからコインランドリーにひとっ走りしてきますっ」  慌ててベッドを降り制服を身に着ける。 「那須くん」  利休先輩は心配そうに胸の前で手を組んでいた。それは厳かに祈りを捧げる天使のごとく可憐な姿だ。  しかして肩からシャツを羽織っただけでかろうじて素肌を隠している姿は、今からでも一発お願いしたい気がするほど扇情的だった。  そしてその背後には欲望にまみれたシーツが広がっている。  もの凄いギャップ。 「時間の余裕はありますか。ご両親はいつ頃帰ってくるんですか」 「いつも二人とも八時過ぎだよ」 「じゃあ、まだなんとかなりますね。取り敢えず俺がシーツを洗ってきますから、先輩は片付けでもしててください」  コンドームとナスを隠して捨てなければ。  ああ、世間一般の恋人たちは、いったいどうやってこの秘密の営みを他人に知られずにうまくこなしているのだろう。  そう言えば、挿入するのだってそう簡単に出来てるものなのだろうか。  俺たちはまったくもっておたおたしてばかりの不慣れな恋愛初心者だった。 「行ってきます」 「うん。いってらっしゃい。お願いね」  玄関で見送られてなんだか不思議な気分になる。 『いってらっしゃい、あなた』 『ああ』 『早く帰って来てね』  そしてチュッとお見送りのキス。  ぶはーっ。鼻血が出そうだ。  今はそれどころじゃないというのに俺は勝手な妄想をしている。  それが変な雰囲気となって先輩に伝わったみたいだった。 「那須くんなに考えてるの?」 「いや、なんか、こういうの新鮮だなって」 「うん」  先輩もなんだか考えているようだ。 「こういう緊急事態になんだけど……、那須くんに『いってらっしゃい』っていうのなんかうれしい」  ぽっと顔を赤らめて言う。  あ、おんなじだ。  うれしくて俺も顔が赤くなりそうだった。 「俺もですよ。玄関先で『いってらっしゃい』って言われると、なんか出勤する夫みたいで……」 「夫!」 「引かないでください」 「引かないよ。そういう姿を思い浮かべるの、なんだか楽しいね」  はにかむような笑顔。ああ、なんてプリティなエンジェルスマイル。 「ほんとにしちゃいましょうか」 「え」 「玄関先で見送りのキス」 「那須くんってば」  いい加減今日はベタベタしすぎている。もうダメだと断られるかもしれないと思ったのに、先輩は寛容だった。  俺は玄関の土間に立っていて、先輩はあがりかまちにいる。身長差が緩和されていてキスしやすい感じだった。  先輩の手が動いて俺の肩に縋る。引き寄せられる。  俺は先輩に唇を奪われていた。  チュッと音を立てるキスだ。 「いってらっしゃい」  俺はねじを巻かれた人形みたいに張り切って家を飛び出す。  そしてコインランドリーでシーツを洗い速攻でとんぼ返りをした。

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