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第35話
「よかった」
出迎えてくれた先輩はほっと安心した顔を見せた。それを見て俺も安心する。
さっそく先輩の部屋に行き二人で協力してシーツを敷いた。
「ナスとコンドームはどうしました」
「紙袋に入れてある。明日コンビニか駅のごみ箱に捨てるよ」
「帰り道のコンビニで俺が捨てるから、持っていきますよ」
「そう。ありがとう」
素直に任せてくれる。
持って帰るのもなんなので、コンドームとローションは先輩に預かってもらうことにした。段ボール箱に入れて、それをまた段ボール箱に入れて、さらに段ボール箱に入れて、クローゼットにしまう。一抹の不安はあったがきっと大丈夫だろう。
うちに持って帰って悪戯盛りの弟にそれらを見つけ出されたらたまらない。自分だけの個室が欲しいのだが、そればっかりはどうにもならなかった。
当然エッチだってうちでは無理だ。
今後は先輩の家がメインということになるだろう。
どうにかこうにかこれで無事完了だ。
俺は額に浮いていた汗をぬぐう。
それから最後に、気になっていることを確認した。
「先輩。なんだかドタバタして色々大変だったけど、もうしないなんて言いませんよね」
「なにを?」
やれやれ、やっぱりちょっと鈍いみたいだ。俺は先輩の耳元に囁く。
「エッチなこと」
「………」
どう答えたものか逡巡している顔がかわいらしい。
「俺はしたいです。何回だってしたい。次はもっと上手に出来ると思うから、させてください」
懇願めいた言葉に先輩の口元がむにゅっとなった。そして言う。
「僕もしたいよ」
上目遣いの希望に俺は浮かれた。
「ありがとうございますっ」
声が弾む。
「僕こそありがとう」
綺麗な微笑みを浮かべるのを俺は感動の面持ちで見つめた。
「それじゃあ俺帰りますね」
バッグを持ち玄関に向かう。
縋るような声が背中を追ってきた。
「あの……、あのね。那須くん。最後にハグしてくれる?」
一生懸命心を形にする様子に胸が詰まる。
幼い印象のまなざしが必死に請うていた。
俺は先輩の背の高さに合わせてかがみ込む。
「利休先輩」
「那須くん」
不思議だ。
誰かの名前をこんなに大切に情熱を込めて呼ぶなんて。きっと先輩も同じ気持ちに違いない。
どちらからともなく引き寄せられて行く。
「好きですよ」
「ありがとう」
玄関先で俺たちは熱い熱い抱擁を交わしたのだ。
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