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第37話

 二学期が始まった。  俺は心底心配しながらも先輩の背中を見守ることしか出来ない。  せめてもと朝、駅で待ち合わせをして二人で登校した。  利休先輩の毅然とした表情は美しい。誰にも汚せない空気を纏っている。  俺の自惚れでなければ、一緒にいることを先輩は心底喜んでいるようだった。  頼られていると思う。  でも頼り切ってはいない。  利休先輩は高潔だ。  一緒に校門をくぐった時、いくつかのこころない視線を感じた。どう扱っていいのか分からないという独特の空気。俺は思った。どうして、いじめたほうじゃなくいじめられたほうが注目されるんだ。  ひそひそと話す声が漏れ聞こえる。  その中に「用心棒」「ナイト」というものがあった。  小さな利休先輩の横を歩く俺は、背も高く腕力も強そうに見えるだろう。まさしく用心棒だ。だからそうずれてはいない評価だった。  実際俺は腕っぷしで負けたことはない。  もちろんやり過ぎたこともない。俺はそういう点ではうまく状況を見極めることが出来、手加減も出来るほうだった。  俺は誰かをいじめたこともないしいじめられたこともない。だから、いじめという人間同士の特殊なかかわり方は必要ないし信じられなかった。  無駄なことだ。必要ないことだ。愚行だ。  身長差約30㎝。凸凹コンビの俺らは彼らの興味を誘ったらしい。視線はそこここでついて廻った。 「それじゃあ、ここで」 「はい」  階段の踊り場で別れを告げられる。先輩は二階。俺は三階だ。 「大丈夫ですか」  先輩は学生かばんを胸の前でギュッと抱きしめていた。どう見たって大丈夫じゃない。 「うん、大丈夫。怖くなったら君の顔を思い浮かべるよ」  柔らかい声が泣けることを言う。 「利休先輩、俺泣きそうです」 「ええ?」 「先輩が頑張ってるのがあんまりかっこよくて」 「かっこいい?」  本当にかっこいいし健気だ。  人前でなきゃ感動と応援のキスを送りたいくらいだった。 「僕かっこよくなりたいと思っているよ。強くなりたい」  意志が瞳に宿っている。  願いの強さがそれを煌めかせているのだ。  無垢な精神。  孤高の存在。  侵しがたい気品。 「いってらっしゃい」  俺は先輩を優しく送り出す。 「うん。いってきます」  固い決意に一歩を踏み出した先輩は、覚悟を表すように一度も振り返らなかった。

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