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金糸雀(カナリア)11 side蓮
昼休み。
「蓮くんっ、どういうことっ!?」
教室の前のドアが、勢いよく開いて。
珍しく足音を立てながら、楓がズカズカと教室へ入ってきた。
「お?なんだ?どしたの?楓、なんか怒ってる?」
「村上、うるさいっ!」
隣の席の村上が茶化すように言ったのを一蹴して、眉を吊り上げたまま俺の方へと真っ直ぐにやってくる。
「ひどっ!れん~、おまえの弟、ヒドいぃ…」
「村上…ちょっと黙ってて…」
村上を黙らせて席に座ったまま待っていると、目の前でピタリと足を止め、睨み付けてきた。
怒りのためか、顔は真っ赤で、肩が大きく上下している。
「そろそろ、来る頃だと思った」
「どういうことっ!?なんで平野が転校したのっ!?」
楓の発言に、ざわりと周りがざわめいた。
「へぇ…あいつ、転校したのか」
「惚けないでよっ!蓮くんが手を回して、平野を転校させたんでしょっ!」
「…知らないな。俺が関わってるって証拠がどこに?」
「っ…なんでっ!?昨日、俺にあんなこと言ったから!?」
「知らないと言ってるだろ。俺には関係ない」
「なんでっ…なんでそんなヒドいことするんだよっ!」
俺が何を言っても、楓は聞く耳を持たなくて。
周りのざわめきが大きくなる。
「…とりあえず、場所を変えよう」
ここでこれ以上話すと、ろくなことにならない。
そう判断して、連れ出そうと掴んだ腕を。
渾身の力で振り払われた。
「触んなよっ…!」
「楓…」
「そうやって…なんでも自分の思い通りにしなきゃ気が済まないのかよっ…!」
わめき散らす楓の目には、ゆらゆらと涙が揺れていて。
「まさか…あのコンクールも、ホントに蓮くんが手を回したの…?」
「違うっ!そんなこと、出来るわけないだろっ!」
「…あれは…父さんの音だったのに…」
「楓、聞けって!いくら九条って言ったって、そんなことまで出来るわけがない!冷静に考えればわかることだろ!」
「…こんな家…来なきゃ、よかった…」
ぽろりと零れた言葉が
小さな刃となって俺に突き刺さった
大粒の涙が溢れる。
楓の哀しみを乗せて。
「栄誉や金なんてなくったって…ひとりぼっちだって…ピアノさえあれば…父さんの音があれば…俺はそれだけでよかったのに…」
「楓…なんで、そんなこと…」
「…九条なんて…蓮くんなんて、大っ嫌いだっ…!」
「…っ…!」
初めて見る、怒りに満ちた眼差しを俺に投げて。
逃げるように駆けていった背中を、俺は呆然と見送った。
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