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金糸雀(カナリア)12 side蓮
「蓮」
授業なんか受ける気にならなくて。
生徒会室でサボりを決め込んだ俺の元へ、春海がやってきた。
「真面目な生徒会長がサボりなんて、明日は槍でも降ってくるかな~」
薄く笑いながら近付いてきて、いつも楓が座っている左隣の椅子に腰掛ける。
「…聞いたよ。教室で派手に兄弟喧嘩したらしいじゃん」
机に頬杖をつき、完全に面白がってる顔で俺を覗き込んでくるから、思わず顔を背けた。
「…ホントにあのクズ、転校させたの?」
「…俺は、ちょっと警告しただけだ。醜い嫉妬で根も葉もないことを触れ回ったら、どうなるかわかってんだろうな、と。その後のことは、俺には関係ない」
「そりゃあ…もう、この学校にはいられないよねぇ」
くすくすと、軽やかな笑い声が響く。
「…目的は達成したのに、なんでそんなに落ち込んでんの」
「目的って…別に俺は…」
「大っ嫌いって言われたこと、そんなに堪えた?」
反論しようとしたら、いきなり図星を突かれて。
思わず、口籠ってしまった。
「ふふ…ビンゴ」
「…そんなことまで、知ってるのか」
「村上が、ぜーんぶ教えてくれたよ?蓮、すっごい落ち込んでるから、なんとかしてやってくれって」
「別に、落ち込んでなんかない」
村上にまで見抜かれていたのが、気恥ずかしくて。
強がりが、口をついて出る。
「ただ…あいつが俺に歯向かうのなんか、初めてだったから…驚いてるだけだ」
「歯向かう」
それまで楽しげに笑ってた春海が、俺の言葉尻を捕らえて、すっと笑顔を引っ込めた。
「…なんだよ…」
「そういうとこなんじゃない?」
「は?なにが?」
「ねぇ、本当にわかんないの?楓が怒った理由」
こっちが問いかけたのに、その答えの代わりに質問が返ってくる。
ひどく冴えた眼差しとともに。
「それ、は…」
「蓮ってさ、いつも楓のこと守るって言うけどさ…守るってどういうこと?大事に大事に、ガラスケースに閉じ込めること?」
「っ…そんなわけないだろっ!」
「でも、今の蓮がやってることは、そういうふうに見えるけど?」
感情の乗せられてない、静かな言葉が
頭をガツンとハンマーのように殴った
「楓は、蓮や龍みたいにαじゃないけど。でも、自分で世界を自由に羽ばたいていける立派な翼を持ってる。それを押さえ付け、籠に閉じ込めてるのは蓮じゃない?今回のことだって…そりゃ、ショックなことを言われたんだろうけどさ。でもきっと、楓なら自力で平野のことを見返せたはず。蓮が裏で手を回さなくったって、自分の力であの本選出場を勝ち取ったんだって、みんなに認めさせることが出来たはずだよ?」
『ちゃんと、自分の足で立て』
『…わかってるもん…』
今朝の、楓との会話がリフレインする。
あいつをひとりで立てなくしてるのが俺だって…?
バカな…
そんなはず、ない…
俺があいつを苦しめるようなこと
するはずがないんだ
そう思うのに。
足元が、揺れる。
今まで信じていたものが、がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。
「もうちょっと、楓のこと信じてあげて、見守ってあげてもいいんじゃない?きっと、楓が怒ったのってそういうことなんじゃないのかなぁ~なんて。まぁ、俺も楓じゃないから、ホントのところはわかんないけどね」
堅かった表情を、不意にくしゃっと崩して。
春海はやたら大人びた笑顔を浮かべた。
「とにかく、少しでも悪いことをしたと思うんだったら謝ってきたら?それが、人間関係の基本だよ」
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