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金糸雀(カナリア)17 side蓮

父から楓がΩであることを知らされたのは 俺と楓が8歳の時 楓がここに引き取られて2年後のことだった 多くの人間がαとして生まれる俺の家系で、Ωが生まれるなんてその時の俺には考えもつかなかったけど 性別検査の結果を見せられては疑いようもなくて その時に言った父の言葉 『楓は、βとして育てる。この事は蓮、おまえだけの胸の内に留めておけ。決して誰にも口外してはならない』 衝撃と共に、強い口調で告げられたその言葉を 今でもはっきりと思い出すことが出来る あの瞬間 俺は楓を一生守っていくと誓った 昔に比べたらずいぶん減ったとはいえ まだまだΩへの世間の風当たりは冷たい 3か月に一度来るヒートと呼ばれる発情期によって 一週間ほど繁殖行動以外の全てのことが出来なくなるΩは 社会的にはどうしても冷遇されてしまう またΩがヒートの時期に放つ強力なフェロモンに αは否が応でも惹きつけられてしまうから どんなに優秀なαでも 衝動的に凶暴な性犯罪を犯してしまう可能性があり そういった意味でも、Ωの存在は疎まれている 今ではヒートを抑制する薬も開発されてはいるが、全てのΩに効果があるわけではなく 価格も高価なため、低所得者の多いΩにはなかなか手を出すことが出来ない代物だ だけど、幸いなことに俺の家は金銭的な面では恵まれているので どんな高価な治療だってやれる 楓を 世間の差別という荒波から守るためなら 俺はなんだってやる 俺だけの天使を 守るためなら 「…ひとつ、聞いてもいいですか?」 片手で目元を覆い隠し、考え込むように黙り込んだお父さんへ。 俺はずっと考えていた質問を投げた。 「どうして…楓がΩであること、そこまで頑なに隠すんですか?確かに、Ωの中には酷い差別を受ける者もいます。でも、この家の力があれば、例えΩであってもそこまでの生き辛さはないはずです。いや、ないように俺が必ず守ってみせます。だから、せめて本人だけにでも本当のことを教えることは出来ないんですか?」 楓は 一生このまま自分のことを知らずに生きていくんだろうか…? それは、楓にとって本当に幸せなことなんだろうか…? ずっと、感じていた疑問。 俺だったら 嫌だ 本当の自分のこと なにも知らされずに生きていくなんて耐えられない 楓にだって 自分のことを知る権利くらいあるはずなんだ その上で 自分がΩであることを受け入れた上で 幸せを掴むことだって… 「…おまえは…まだなにもわかっていない」 さらに言葉を重ねようとした俺を。 お父さんの酷く硬い声が遮った。 「Ωであること…αであること…それは、頭でどうこう考えられるものじゃない。それほど…本能というものは恐ろしいものなんだ…」 「…本、能…?」 「私は楓を…諒と同じ目に合わせたくはない」 ずるりと、力なく手を降ろしたお父さんの瞳には。 底の見えない哀しみが溢れていた。

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