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百舌鳥(もず)1 side春海

初めて会った時 天使だと思った 『俺の弟の楓。仲良くしてやって』 蓮にそう紹介されたのは、小学校にあがるほんの数日前。 それまで、蓮の弟は龍だけだったから、いきなり弟なんて紹介されてびっくりしたけど。 顎のラインとか唇の形とかが蓮と似てたから、子どもだった俺は深く考えずにすんなりその事実を受け入れた。 『俺、藤沢春海。よろしくねっ!』 大きな声で挨拶すると、ビクッと震えて。 楓は、その頃の蓮より少し大きい体を小さく縮め、その後ろに隠れた。 『大丈夫。春海は俺の友だちだから』 蓮が見たこともない優しい顔でそう言うと、おずおずと後ろから出てきて。 『はじめ…まして…』 鈴のような澄んだ音色で、言った。 あの瞬間、捕らえられたんだ 『あいつ、九条なのにβなんだって』 学校中の奴らがこそこそ話してても、気にもなんなかった。 『あいつの父親、九条を勘当されて自殺したらしいよ。かわいそー』 可哀想、なんて言いながら笑ってる奴らに、心底ムカついた。 性別とか 出自とか そんなの関係なかった だって、あんなに綺麗なもの 見たことかったから 時折見せる、はにかんだような笑顔が、本物の天使みたいで。 最初は、その笑顔を傍で見ているだけでよかった。 だけどいつからか、一番近くで見ていたいと思うようになった。 いつだって俺が、楓を笑顔にしたかった。 俺だけが。 でも。 楓の傍には、いつも蓮がいた まるで楓の影のように ひとときも離れず、ずっと傍に……… 「おーい、春海っ!今日は練習なしだって!」 「え?マジ?」 放課後、いつものように体育館へ向かおうとしてたら、同じバスケ部のヤツが教室までそう告げにきた。 「なんか、急に体育館使えなくなったって」 「そうなんだ」 「なぁ、せっかくフリーになったし、たまには渋谷とか行かねぇ?最近、全然休みなかったしさ~久しぶりにぱーっと遊ぼうぜっ!」 「そうだなぁ…」 渋谷かぁ… 渋谷もいいけど… 「悪い。俺、パス」 「えーっ!?なんだよぉ…あ、もしかしてデート!?」 「んなわけないだろ。それに俺、今は女の子と付き合う気ないし」 「春海、めちゃくちゃモテんのにもったいないなぁ…って…あ!もしかして…春海って、男の方が…ってこと!?」 「ばーか」 面白そうに茶化してきたそいつの頭を、手にしたカバンで軽く叩いて。 「じゃあな。また明日」 俺は教室を飛び出した。 心臓が、バクバク言ってる。 あんな冗談に動揺しすぎだろ… あいつが俺の気持ち 知ってるわけないのに そうは思うけど、いきなり核心を突かれて焦ったのは事実で。 参ったな… 俺、実は結構キちゃってんのかも… 自分で自分に驚きつつ、早足で購買を目指し。 そこで言い訳用の小さなチョコレートを買って。 中庭を突っ切り、音楽科の校舎へと向かった。 今日は蓮はお父さんの仕事の手伝いとかで 放課後早々に帰ったはず 今日なら誰にも邪魔されない そう思うだけで、鼓動がどんどん早くなっていく。 会いたくて。 早くその天使の笑顔が見たくて。 階段を一段飛ばしで駆け上がり。 いつも楓が練習してる場所を目指した。 小窓からそっと中を覗くと、楓はピアノの前に座って、楽譜になにかを書き込んでいるところで。 今なら大丈夫かな…? その小窓を、拳でノックする。 ぱっと振り向いた楓は、ちょっと驚いたように目を見張って。 でもすぐに柔らかい微笑みを浮かべ、俺の方へ向かって歩いてきた。 「春くん、どうしたの?」 「えっと…これ、差し入れ。楓、頑張ってるかな~と思って」 ドアを開けてくれた楓に、さっき買ったばかりのチョコを差し出す。 「ありがとう。入る?」 それを受け取って。 俺を招き入れてくれた。

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