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百舌鳥(もず)3 side春海

駅までの道を、他愛のないことを話しながらゆっくり歩いてると。 ふと、楓が足を止めた。 そこは、いつも女子高生で賑わう、スイーツバイキングのお店の前。 「…お腹、空いた?」 「えっ?あ、ううんっ…」 看板に写ってる華やかなケーキをじっと見つめてる横顔にそう問いかけると、慌てて首を振る。 楓、実は甘いもの好きだもんなぁ デザート食べてるとき、本当に嬉しそうにしてるし 「か、帰ろっ!」 耳をほんのり赤くして、早足で歩き出した背中を、俺はその場から動かないで見つめた。 「…春くん?」 「食べてこっか?」 ついてこない俺に気付いた楓が、数歩先で止まったから。 俺はにっこり笑って、親指で店の入り口を指す。 「ええっ!?」 「あ、でも帰ってからも練習する?時間、ない?」 「…ううん…だい、じょうぶ…だけど…」 また申し訳なさそうに眉を下げるから。 楓のところまで駆けていって、その手を強く引いた。 「ほら、早くっ!」 「あっ…春くんっ…」 握った手を、ぐいぐい引っ張って。 手を繋いだまま、店の自動ドアを抜ける。 「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」 「はい」 「こちらへどうぞ」 出迎えてくれた店員に大きく頷くと、すぐに席に案内された。 店の中は、案の定近くの女子高の制服の子だらけで。 楓と手を繋いだまま、その中を痛いほどの視線を浴びながら歩く。 「あの…春くん、手…」 「なんで?嫌?」 「嫌、じゃない、けど…」 不安そうな目で見つめるから、返事の代わりに手をぎゅっと握ると、困った顔で、それでも微笑んでくれた。 「では、ごゆっくりどうぞ」 席について一通り説明を受けて、店員が去っていくと。 楓が小さく息を吐く。 「なんか…ごめんね?無理やり誘ったみたいで…」 「なんで謝ってんの。ってか俺、誘われてないし。無理やり誘ったの、俺だし」 「いや、でもさ…俺が立ち止まっちゃったから…」 「俺さ~、前からここ、入ってみたかったんだよねっ!ほら、早く取りに行こ?時間制限あるから、ぐずぐずしてたらもったいないよ!」 まだなんか言いたそうなのを遮って、立ち上がると。 「…ありがと」 そう言って。 ようやく笑ってくれた。 「おーっ!超うまそっ!」 お皿を持ち、ケーキの並んでる棚に行くと、そこには小さくカットされたいろんなケーキが並んでて。 「どれにしよっかな~…楓はどれにする?」 すぐ後ろに並んでた楓を振り返ると、目をキラキラさせてそれを眺めてる。 「うーんと…チョコのとイチゴのムースと…ティラミスと抹茶のシフォンケーキと…あ、プリンも美味しそうっ!」 呟きながら、次々にお皿にケーキを乗せていく姿は、本当に楽しそうで。 「そんなに食べきれるの?いつもあんまり食べないのに~」 それがすごくかわいくて、つい揶揄ったら。 「ケーキは大丈夫っ!」 なぜか自信満々に、そう胸を張られた。 結局、楓につられてお皿いっぱいにケーキを乗せ。 口直し用のパスタとカレーをちょっぴりと、アイスコーヒーを持ってくると、二人用のテーブルはお皿でぎゅうぎゅうになってしまった。 う… 見てるだけで胸焼けしそう… こっそり冷や汗をかいてる俺とは対照的に、楓はフォークを握りしめ、わくわくが隠しきれないって感じで所狭しと皿の上にならんだケーキを見てる。 「どれから食べよっかな…」 そんな姿、滅多に見られないから。 ま、いっか… こんな可愛い楓が見られただけで ここに入った価値はあるかも 思わず口元が緩んだとき、それまでケーキに心奪われていた楓が、がばっと顔をあげて。 「ありがとね、春くん」 最上級の笑顔で、そう言った。 それを見た瞬間、身体の奥から愛おしさが濁流のように溢れ出してきて。 それに押し出されるように、手を伸ばしそうになって。 慌てて、拳を握って堪えた。

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