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百舌鳥(もず)5 side和哉

あの人を見つけたのは、中等部の入学式。 周囲に薦められるまま、なんとなく入ったその学校で。 在校生代表挨拶として壇上に現れたその人は。 一つしか違わないというのに、誰よりも堂々としていて、大人びていて。 そして。 背中に誰よりも大きくて白い翼を持っていた。 『…大天使ミカエルだ…』 幼い頃、敬虔なクリスチャンだった母方の祖母に連れられて訪れた教会に飾ってあった 大きな大きな大天使ミカエル 一瞬で心を奪われたその絵画から、飛び出てきた人だと思った。 その瞬間に芽生えた願望 あの大天使の一番近くに行きたい あの人が見下ろす景色を俺も見たい それから、なんとかそのミカエルに近付きたいと、必死に考えた。 でも、そもそも他人には興味がなく、人付き合いが苦手だった俺。 いつも周りに人が溢れ、その真ん中で笑ってるあの人の視界に入るにはどうしたらいいのかすら、分からなくて。 とにかくなんでもいいから人より目立ったことをしようと、死に物狂いで勉強して、学年トップを取り続けた。 『おまえさ、生徒会役員、やんない?前からおまえのこと気になってたんだ』 ある日突然、声を掛けられた時には天にも昇る気持ちで… だけど。 あの人の視界を捉えて離さないのは、たった一人。 いつもあの人の傍に影みたいにくっついて。 脱力するような笑顔であの人に笑いかける、あいつ。 血が繋がっているはずなのに ただちょっとだけピアノが上手いだけの あの人とは似ても似つかぬ出来損ないのβ なんで? なんでそんな奴ばっかり気に掛けるの? 俺の方が、あなたに相応しいのに どうしたら、あなたの視界を俺で埋め尽くせるのか 俺はずっと、そんなことばかり考えている 生徒会室のドアを開けると、長机の真ん中にポツンと座る、大天使ミカエル。 「あれ?一人ですか?」 普段はその横に当たり前にいるはずなのに、今日は見えない姿を探しながら訊ねると。 蓮さんは口に咥えたままのサンドイッチを頬張りながら、チラリと俺を見た。 「ああ」 もしゃもしゃと咀嚼して、それを飲み込むと。 素っ気なく一言そう答え、また、目の前に置かれたノートパソコンへと視線を向ける。 「どうしたんです?一人なんて珍しいですね」 「…今日は特に話し合う案件もないし…別に、どうしても昼休みに生徒会室に来なきゃいけないってわけでもないからな…たまには、こんな日もあるだろ」 「いや…」 そうじゃないんだけど… 言いかけた言葉を、すんでのところで呑み込んだ。 俺のバカ チャンスだろ こんなこと、滅多にない 俺のミカエルと、二人っきりだなんて 「…隣で、メシ、食っていいですか?」 俺は、いそいそと蓮さんの左隣の椅子を引いた。 「あぁ…って、そんな許可いらねーだろ」 「そう?だってここ、楓の専用席じゃん」 そう決まってるわけじゃないけど 暗黙の了解みたいになってる事実 いつも影みたいに ミカエルの側にくっついてるあいつ 九条なのにβで 勉強もスポーツも人より劣ってて でもなぜかピアノの才能だけは天才的 なのにいつも自信なさそうで 自分なんか…って顔に書いて歩いてて 見ててイライラする 俺のミカエルの一番側にいるんだから ミカエルに大事に大事に守ってもらってるんだから もっと堂々としてりゃいいのに… 「別に…専用席じゃ、ないし…」 蓮さんは、パソコンのディスプレイを見つめたまま、手を止めて。 なぜか、ゆらりと瞳を揺らした。

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