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百舌鳥(もず)6 side和哉

「おまえの弁当、いつも旨そうだよな」 鞄から取り出した弁当を机の上に広げると、不意に蓮さんがそう言った。 「えっ…そうですか?」 「うん。彩りとかもちゃんと考えられてるしさ…旨そうだなって、いつも思ってたよ」 まさか、そんなところを見ていてくれてるなんて思ってもなくて。 「実はこれ、俺が作ってるんです!」 嬉しくって、つい大きな声が出てしまった。 「え?そうなのか?すごいな」 「うち、両親共働きで忙しいんで…」 「おまえの親御さん、普通のサラリーマンだったっけ?」 「はい。それに、母親あんま料理とか得意じゃなくて。いつも金持たされてたけど、コンビニの弁当飽きちゃうし…栄養、どうしても片寄っちゃうし。だったら、自分で作ろうかって」 「へぇ…そこで自分で作ろうって発想になるのがすごいな。俺なんか、絶対そうは思わない」 「それは…蓮さんはそういうシチュエーションにならないからですよ。もしそうなったら、蓮さんならもっとすごいもの作れます。なんでも人より何倍も秀でてるんですから」 力説すると、困ったように眉を下げた。 そんな表情、初めて見た。 人間っぽい顔もするんだな… 忘れないように、脳裏に刻み込んだ。 「…おまえ、俺のこと神格化しすぎ」 「え?そうですか?蓮さん、完璧人間じゃないですか」 「そんなことはない。絵を書くのとか、苦手だし…音楽に至っては、楽譜すら読めないよ。何回も教えてもらってるのにな」 何気ない言葉に、ちりっと焦がれるような痛みが胸に走る。 今、その頭の中に誰を思い浮かべているのかがわかったから 「そういう点では、おまえのほうが器用だと思うよ。おまえ、美術の評定もいいだろ」 「そんなこと、ないですけど…」 「龍より頭良いし…この間の中間も、学年トップだったんだろ?」 「まぁ…はい」 「龍が悔しがってたよ。どうやってもおまえを抜けないって。αの中でもあいつは優秀な方だと思うけど、その龍ですら敵わないおまえってスゲーやつだよな」 「そんなことないですよ」 「おまえや春海や楓を見てると、αとかβとかΩとかそんなことは些細なことなんだなって思う。みんな、持って生まれたその人個人の才能と、それを昇華させる努力を怠らない強い精神と…どちらも持ち合わせている凄い人間だと思うし、そこに性別なんて関係ないよ」 「…そう思うのは、やっぱり蓮さんが凄い人だからですよ」 「え?」 「俺が今まで知ってるαの奴らは、自分達が上位種であることに胡座を掻いてるような奴ばっかりでしたから」 相手の努力や才能を認めようとはしない ただプライドが高いだけのクズ ずっと俺の中のαのイメージはそれだった あなたに出会うまでは 「…そうか。なんか…すまなかったな」 「どうして蓮さんが謝るんですか」 「ははっ…それはそうか」 「だから俺、蓮さんに出会えて本当に良かったって思ってるんです」 力を籠めてそう言うと、蓮さんは嬉しそうに笑ってくれて。 「…俺がいつか父の会社継いだ時、おまえみたいな優秀なやつが側にいてくれると、助かるだろうな」 不意に零れた言葉に、ドキンと心臓が跳ねた。 「…じゃあ…」 この人にとっては 何気ない言葉かもしれない でも 俺にとっては その言葉はたった一筋の光 Ωじゃない俺は あなたの番にはなれない だったら あなたの一番近くにいるには それしか方法はない 「俺をいつか、蓮さんの秘書として雇ってくれませんか?」 「え?」 「俺、絶対蓮さんの役に立つと思いますよ?」 そのためになら どんな努力も惜しまない 「…そうだな。考えておくよ」 それは 5年間焦がれてきた俺の大天使が 初めて俺だけに向けた微笑みだった

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