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百舌鳥(もず)9 side和哉
龍の言わんとしていることがなんとなくわかって。
つい、顔を背けてしまった。
「それに、いづれはお父さんの会社を…世界中に広がる九条グループの全てを継ぐ人なんだ。そうなったら、それをまた次へと繋ぐ跡継ぎが絶対に必要になる。だから、そういう相手を選ばなきゃならないし、男でそれが出来るのは…Ωしかいない」
「そんなの、わかってるっ!」
胸の痛みに耐えられず、淡々と語られる言葉を遮った。
「わかってる…そんなこと、最初から望んでない」
俺はただ
傍で見ていたいだけ
俺のミカエルが
その白く美しい翼を広げて
果てしなく大きな世界を渡っていく様を
誰よりも近くで見ていたいだけなんだ
「…ごめん」
うつむいたまま、きつく唇を噛んでいると。
龍の申し訳なさそうな声が、落ちてきた。
「そんなこと…おまえだってわかってんのにな…でもさ、俺はおまえのこと、結構大事に思ってんだ。傷付くことがわかってて、それを止めないで見てるなんて嫌なんだよ」
「…龍…」
優しい声音にそっと顔をあげると、さっきまでの厳しい表情は消えていて。
代わりに、見たことないような優しい表情が浮かんでいる。
「俺にとって、おまえは一番のライバルで…親友なんだから」
「親友…?」
「そうだよ。なに?おまえは俺のこと、なんとも思ってないわけ?」
「そんなこと、ないけど…」
不満そうに口を尖らせるのを見て、初めて龍と話した日のことを思い出した。
『おまえ…βなのにやるじゃん』
中等部に入って初めての中間テスト。
俺が一位で、龍が二位で。
『俺、誰かに負けたの初めてだわ。しかも、βに』
俺の机の前に立ち、腰に手を当てて見下ろす龍は、すごく偉そうで。
正直、ムッとした。
β、βって、五月蝿いんだよ。
九条って有名な家にαで生まれたからってだけで威張ったって、βの俺に勝てなかったくせに。
若干の蔑みを込めて睨み返すと。
『次は、ぜってー負けねぇから』
一瞬だけ、悔しそうに顔を歪めながらも。
次の瞬間には、ニカッと笑いながら手を差し出した。
『これからよろしくな、和哉』
裏表のない、屈託のない笑顔。
苦労なんて微塵もしたことなさそうな、曇りのない笑顔。
眩しすぎる太陽みたいなそれを向けられて。
なぜか吸い寄せられるように、次の瞬間にはその手を握ってしまっていたんだ。
一番苦手なタイプのはずだったのに。
「俺だって…龍のこと一番のライバルで…一番の友だちだと思ってるよ」
口ではβだαだって言いながら、龍はそんなことで人を区別したりはしない。
それは、4年間付き合ってきた俺が一番わかってる。
「へへっ…さんきゅ」
自分で言わせたくせに、照れたように笑って。
「まぁ、さ。ちょっとキツいこと言ったけど、俺や兄さんの周りにΩなんて近寄れるわけないし。兄さん、おまえのことすげー気に入ってるからさ。おまえが兄さんの傍にいたいってんなら、俺も協力するからな」
力強く、そう言ってくれて。
なんだかくすぐったかったけど、胸の奥がじんと熱くなった。
「…ありがと、龍…」
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