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火食鳥(ひくいどり)3 side蓮

家の前に車が着いたと連絡を受けて。 俺は楓の汚れた制服を脱がせ、適当に服を着せて。 その手を引き、誰にも見られないように慎重に家を抜け出した。 「すみません。こんな夜遅くに」 「いえ…でも、どうしたんですか?急に」 その質問には答えず、後部座席に楓を押し込んで。 自分もその横に乗り込み、素早くドアを閉める。 「目黒の…お父さんのマンションの鍵、持ってますよね?」 「え?あ、はい…」 「そこへ向かってください」 父は都内にマンションをいくつか所有してるけど あそこは使い勝手が悪いと 最近は殆ど使ってないはず あそこなら 楓を隠すことが出来る 「え…今、ですか…?」 「はい」 「で、でも…」 「早くっ!」 「は、はいっ!」 戸惑う佐久間を一喝すると、びくっと震え上がって。 車が、急に走り出した。 「…蓮くん…」 とりあえず龍に見つからなかったことにホッと息を吐き、深くシートに身体を沈めた俺に。 楓の腕が絡み付く。 「ねぇ…もっとキスして…」 グッと身体が密着して。 間近で見つめる妖艶な光を湛えた瞳が、俺を誘う。 「楓、待って…」 「いや…待てない…」 振り解こうとしても、本能が拒否をする。 抗えない… 「蓮くん…お願い…」 誘うように薄く開かれた唇に、目眩がして。 気が付いたら、その唇に噛みついていた。 「んんっ…」 甘い唇を貪っていると、刺さるような視線を感じて。 バックミラー越し、佐久間の怯えた眼差しが俺たちを見ていた。 「ねぇ、もっと…足りない…」 「もうちょっと我慢して。もうすぐだから」 痛いほどの視線を浴びながら、何度も強請る楓をどうにか宥めていると。 30分ほどで、マンションの前へ着いた。 「ありがとう。楓、おいで」 不安そうな、怯えたような佐久間から鍵を奪うように受け取り。 楓を抱えながら、車を降りる。 「あの、蓮さんっ…楓くんは、その…」 ドアを閉めようとした瞬間、今までずっとなにか言いたげにしながらも黙っていた佐久間が、口を開いたけれど。 俺が車の窓をバンっと力一杯叩いてやると、瞬時に口をつぐんだ。 「このことは、他言無用だ。おまえが見たことも、俺たちがここにいることも、お父さんや龍には話すな。いいな?…これは、命令だ」 腹に力を入れて、ドスの効いた声を出すと。 佐久間は息を飲んで、小さく何度も頷く。 佐久間は表向きは父の秘書だけど 近い将来俺が父の跡を継ぐときには 俺の第一秘書になることが決まっている だから 父の言うことよりも俺の言うことを優先せざるを得ない 「また、連絡する。それまでは、上手く誤魔化しておけ」 「…わかり、ました」 小さく震えながらも頷いたのを確認し、今度こそドアを閉める。 「行こう」 車の遠ざかる音を後ろに聞きながら、足元の覚束ない楓の背中を支えてエレベーターに乗った。 「蓮くん…」 俺に寄りかかった楓からは、一層強く甘い匂いが漂ってくる。 今すぐにでも、その甘い身体を食らい尽くしたい欲望を必死に抑えながら、部屋を目指して。 震える手で鍵を開け、その身体をドアの内側に押し込んで。 「楓っ…」 ドアの閉まるのすら待てずに。 その身体を、強く抱き締めた。

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