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火食鳥(ひくいどり)7 side蓮

嵐のような時間が終わり。 その何よりも愛おしい存在を抱き締めながら、乱れた息を整えていると。 さっきまで、身体のなかで荒れ狂ったように渦を巻いていた獰猛な欲望は少しずつ治まっていって。 その代わりに、ひどい後悔が押し寄せてきた。 …抗え、なかった… 『本能というものは、それほどまでに恐ろしいものなんだ』 この間の父の言葉が、俺を裁く審判のように頭で響く。 頭で考えていたことなんて、意味がなかった。 最新の薬を飲んでいるんだから大丈夫だろうという、過信。 例えヒートが訪れたとしても、俺だけは理性を失わないという根拠のない自信。 それらは全て、突然やってきたヒートの波に、あっさりと流されてしまった。 なんて愚かなんだ… 俺は 俺が一番大切にしたかったものを 自分の手で壊してしまったんだ… うちひしがれた重い身体を起こし、楓の中から抜け出した。 さっきまで繋がっていた場所から、自分が解き放った白い残滓がどろりと溢れだしてきて。 反射的に、目を背けてしまった。 「楓…大丈夫か…?」 それをティッシュで拭き取り、楓の腹の上に広がっていた同じものを拭き取る間、楓は魂の脱け殻のように微動だにせず、ベッドに横たわったままで。 「…楓…?」 顔を覗き込むと、焦点の合っていない眼差しが、虚空を彷徨っていて。 「楓っ!?大丈夫かっ!?」 思わず、頬を軽く叩いたら。 ようやくピクリと動いた楓は、ゆっくりと俺へと視線を合わせた。 その瞳の奥底にあるのは 深い深い絶望にも似た 真っ黒い闇 「…かえ、で…」 「…どう…して…?」 さっきまでの熱が嘘のような、冷めた声。 「どうして…?」 真っ黒い瞳に、みるみるうちに涙が溢れてきて。 「…知ってたの…?」 「え…?」 「俺が…Ωだってこと…蓮くんは、知ってたの…?」 ゆらりと、瞳が大きく揺れて。 その反動で、大粒の涙が零れ落ちる。 「どうしてっ…どうして…どうしてっ…どうして、隠してたのっ…」 血を吐くような苦しみを乗せて、そう叫んで。 楓はそのまま、声を上げて泣き崩れた。 「楓、ごめんっ…」 思わず、強く抱き締めた。 こんな風に 泣かせたくなんかなかった だから 知られてはいけなかったのに 最悪の形で おまえに真実を伝えてしまった 全ては 俺の責任だ 「ごめん…ごめんな…」 何度謝っても、楓は泣き止むことはなくて。 「ごめん…守るから…俺が、楓のこと絶対に守るから…この命にかえても、絶対に守るから…」 震える身体を抱き締め その身にのしかかる痛みを感じようとしても 楓が今 どんな絶望の中にいるのか きっと本当のことは俺にはわからないんだろう それでも おまえは俺の 俺だけのΩだから この命にかえても おまえを守ってみせるから… 「楓…」 そう、心に固く誓いながら。 いつまでも泣き続ける楓を、ただ抱き締めていることしか、俺には出来なかった。

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