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火食鳥(ひくいどり)9 side龍

『…はい』 ようやく繋がった電話。 「兄さんっ!?やっと繋がった…」 『…すまない』 「楓の様子、どう?大丈夫なの!?」 『…ああ。大丈夫だ』 「そっか…よかった」 5日前 突然兄さんと楓がいなくなった 楓が具合が悪いって部屋で寝込んでて 様子を見に行ったけど、ノックしても出てこなくて しばらくしてもう一度見に行ってみたら、そこはもぬけの殻で… 慌てて兄さんの部屋へ行ってみたら、兄さんもいなくて 小夜さんに聞いても知らないって言うし お父さんはまた長期の海外出張に行ってしまったから 聞いても無駄だし 何度電話しても二人とも出なくて メッセージを送っても返事もなくて  翌日、学校にも来なくて もしかして、事件にでも巻き込まれたんじゃないかって、警察に捜索願いを出そうかと真剣に考え始めたとき 佐久間から、楓が心臓病の発作を起こして倒れたって聞かされた 楓が病気って、本当だったんだ… お見舞いに行こうと思ったのに、どういうわけか入院先を佐久間が教えてくれなくて 兄さんが付き添ってるから心配ないって そう言われた瞬間 心の奥がぎしりと音を立てた また、だ また独り占めしようとする 楓は兄さんのものじゃないのに 俺だって本当は 楓の傍にいたいのに だって楓は 俺の大切な…… 「兄さんも帰ってこないから、もしかして相当悪いんじゃないかって気が気じゃなくてさ…」 ジリジリと、焦げるような心を抱えながら。 それでも俺は、とりあえずの安堵の息を吐いた。 『…すまない…』 「いや…大丈夫なら、いいんだ。楓に代われる?声、聞かせてよ」 『…今、寝てるから』 「あ、そっか…」 どこか冷たい声で断られて。 また、じくりと痛みが走る。 「退院とか、いつ?っていうか、兄さんだけでも戻って来れないの?付き添いってさ…看護師さんだっているんでしょ?」 『…』 「春海も和哉も、すげー心配してるし…なにより、楓の先生がさ、コンクールのこと心配してる。本選、明後日だろ?」 『…あぁ』 「こんな状況じゃ、コンクールなんて無理だろうけど…兄さんの口から、説明して欲しいんだよ。俺じゃ、ちゃんとした状況わかんないからさ。聞かれても、なんも答えられなくて…」 『…あぁ…』 早口で捲し立てたけど、どういうことか兄さんの反応は鈍くて。 「兄さんっ!聞いてんのかよっ!」 苛ついて、つい大声を出してしまった。 『…わかった。明日、学校行くから』 しぶしぶ、といった体の、仕方なさそうな返事がきた。 その態度に、酷い違和感を覚える。 なんだ…? 兄さんは昔から感情のコントロールが上手くて たとえ自分がどんな状況でも、しっかり的確な受け答えをするのが常で それは弟の俺に対してだって同じ だから、いつもはこんな曖昧な返事なんて 絶対にしないのに どうしちゃったんだろ… 楓の具合、そんなに悪いのかな…? 『悪い。もう切るわ』 「あ、う、うん。明日、待ってるから!」 感情の消えたような、冷たい声が聞こえてきて。 慌ててそれに返してると、途中でブツリと切られてしまった。 「兄さん…?」 虚しく響く、機械の音を聞きながら。 酷く、胸が騒いだ。

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