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火食鳥(ひくいどり)15 side楓
ふと、目が覚めた。
重い目蓋を持ち上げると、部屋はまだ薄暗く。
すぐ横には、規則的な寝息を立てる蓮くんの顔。
その温かい腕の中で、もう少し睡眠を貪ろうと目を閉じたけど。
しばらくそうしていても、もう眠りは訪れなくて。
仕方なく、身体に巻き付いていた腕をそっと除けて、ベッドを降りた。
朝の冷たい空気を直に肌に感じながら、カーテンを少しだけ開いて外を眺めると。
東の空を覆う雲が、美しい黄金色に輝いている。
空を見るの、何日ぶりだろう…
そんなことを考えて。
気がついた。
昨日まで狂ったように身体中で渦を巻いていた熱が
嘘のように消えてしまっていることに
終わったんだ…
それは、この世の果ての楽園で微睡んでいたような。
地獄の底を苦しみ、のたうち回っていたような。
そんな一週間だった。
正直、この部屋に来てからのことは朧気にしか記憶はない。
初めてのヒートの熱に侵されて。
快楽の濁流にただ流されていただけ。
そう
俺は本当はΩだったんだ
「…ふ…」
無意識に、笑いが漏れた。
俺は、なんてバカだったんだろう…
少し考えればわかることだったのに
自分はβだって信じこんで
みんなと同じように
未来は無限に広がっていると…
「…っ…う…」
嗚咽が込み上げてきて。
唇をきつく噛んで、それを堪えた。
その時。
「…風邪引くぞ…」
あったかい毛布とともに、あったかくて優しい体温が、俺を包み込んだ。
「…っ…蓮くんっ…」
泣いてる顔を見られたくなくて。
思わず、身を固くして俯いた。
「おはよ。もう、目が覚めたの?」
そんな俺のこと、わかってるはずなのに。
蓮くんはとても穏やかで優しい声でそう言って。
泣けるほど優しい手付きで、髪をゆっくりと鋤いてくれる。
背中から直に伝わる体温があったかくて。
こんな俺の全部を、包み込んでくれて。
身体に入ってた力が、自然に抜ける。
そのままゆっくりと体重をかけて、背中を預けると。
蓮くんは俺を抱く腕に少し力を籠めて。
俺のうなじに、そっとキスを落とした。
触れられた部分がじわりとあったかくなったけど、昨日までみたいに身体が一瞬にして燃えるように熱くなることはなくて。
そんな自分に、酷くほっとする。
「ヒート…終わったの…?」
「そうみたい」
「そっか…」
蓮くんもほっとしたように息を吐いて。
何度も何度も、うなじや首筋にキスをする。
「んっ…蓮、くんっ…」
ヒートが終わったとはいえ、一度覚えてしまった快楽の記憶は頭の奥に嫌というほど残っていて。
その感触に、鳥肌が立つ。
ざわりと
快感が頭をもたげてくる
「蓮くんっ…」
これ以上はと、俺を包み込んでいる腕を咎めるように掴むと。
「ごめん」
蓮くんは、悪びれた風もなくそう言って。
俺の顎に手を添えて、後ろを向かせた。
間近で合った瞳は、優しく笑んでいて。
愛おしさがいっぱいに広がっていて
そっと目蓋を下ろすと。
あったかい唇が、重なった。
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