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火食鳥(ひくいどり)17 side蓮

もっと泣くのかと思ってた あの日みたいに 声をあげて 心に渦巻く苦しみを吐き出すように 自分の運命を呪うように 俺に出来るのは ただその怒りにも似た深い哀しみを受け止めてやることだけだから だから強く抱き締めてやろうと そう思っていたのに 「…ごめん」 楓は大粒の涙を一つだけ溢すと。 手の甲で、ぐいっとそれを拭って。 哀しいほどに儚い笑みを、唇に乗せた。 「ごめんね。こんなこと、蓮くんに言ったって仕方ないのにね」 全てを悟ったような。 全てを諦めてしまったような そんな声に、俺の方が苦しくなってしまって。 無意識に抱き締める腕を緩めると、するりとそこから逃げていこうとするから。 慌てて、また強く腕の中に閉じ込める。 「蓮くん…?」 「…俺が、いるから…」 どんなに勉強が出来たって こんなときにどんな言葉を掛ければいいかなんて わからなくて こんなつまらない言葉しか言えない自分に 腹が立つけど 「悲しかったら泣けばいいし、どうしようもなく腹立たしかったら俺に怒ればいい。俺は、どんな楓だって受け止めるから…」 「っ…蓮、くん…」 「だから…俺の前では、無理して笑ったりしなくていいから。ありのままの、楓でいいから」 それでも 誰よりも愛おしいおまえを 自分の全てをかけて守りたいと思う気持ちは 嘘じゃないから 「愛してるよ、楓」 ほんの僅かでもいいから、俺の気持ちが届きますようにと。 ありったけの想いを、その言葉に籠めると。 楓はぐしゃっと表情を崩して。 「蓮くんっ…」 また大粒の涙を溢した。 そのまま、楓は声を殺して泣き続けて。 俺は落ち着くまで、その震える肩を抱き締めて。 ずっと背中を擦ってやった。 気の利いたことも言えず、ただずっと。 ようやく、震えが止まって。 ずずっと鼻を啜る音が聞こえたかと思うと、腕のなかでもそりと顔を上げた。 「…ごめん。もう、大丈夫。ありがと…」 「うん…」 余程、俺は情けない顔をしていたんだろう。 目も鼻も真っ赤にした楓は、驚いたように大きく目を見開いて。 それから、どこか困ったように微笑んだ。 「ねぇ、蓮くん。俺、お腹空いちゃった」 一番辛いのは自分だと言うのに。 俺に気を遣ってか、おどけたように首を竦める。 「なんか、この一週間あんま食べた記憶ないんだよね…俺、ご飯どうしてたんだっけ?」 「一応、食べてはいたよ。コンビニのおにぎりとかだけど」 「そっか」 俺の返事に、楓は笑ったけど。 食事でさえもどうでもよくなるほど そんなにもヒートの熱は激しいものなんだと 間近で見ていて、わかっていたことなのに。 笑った顔を見たら、また苦しくなった。 実際、この一週間で楓は一回り小さくなったように見える。 「なんか、美味しいものが食べたいな」 そんな俺の心がわかってるのか、甘えた声で強請るから。 「じゃあ、早く家に帰って、小夜さんにとびきり旨いもの、作ってもらおうか」 何気なく、そう返したら。 一瞬にして、笑みが剥がれ落ちた。

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