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火食鳥(ひくいどり)19 side蓮
家に戻り、自分の部屋に入ると。
楓は疲れたようにベッドに腰かけて、綺麗にベッドメイクされた真っ白なシーツを、そっと手のひらで撫でた。
切なさを乗せた、眼差しで。
初めてヒートに襲われたあの日を
思い出してるんだろうか…
その隣に座り、肩を抱いてやると。
そっと身体を預けてくる。
「…あの日、ね…」
楓の手が、俺のシャツの裾をきゅっと握った。
「春くんに…好きだって言われて…俺も、春くんのこと、好きだって…そう思ってた…」
「…うん…」
「でも…俺、は…」
「楓」
声が震えたのが、わかって。
俺はそれ以上を遮った。
「春海のことは、俺に任せてくれればいい。楓は、なにも考えなくていいから」
「でもっ…」
「いいから。大丈夫だから」
強引に、言って。
肩を引き寄せ、抱き締める。
楓は
俺のものだ
例えあいつにだって
絶対に渡さない
「…うん。ごめん」
楓の腕が、背中に回ってきて。
甘えるように、首筋に顔を押し付けてきた。
その顎に手を掛けて上を向かせると、誘うように唇が薄く開く。
「楓…」
ゆっくりと顔を近付けていくと、戸惑うように瞳が揺れたけど。
唇が触れる寸前で止めて、じっと瞳を覗き込めば。
観念したように、目蓋を下ろしてくれて。
微かに震える睫毛を見つめながら、その熟れた果実のような赤い唇に自分のそれを重ねた。
そのままベッドへと押し倒し、唇を滑らせて頸動脈を尖らせた舌でなぞると。
「ん…ぁっ…蓮くんっ…」
ぶるりと震える。
「だめっ…も、終わった、からっ…」
「欲しい…楓…」
両手を突っ張って俺を押し返そうとするのを、背中に腕を回して抱き込むことで阻止して。
熱い吐息とともに、耳元で囁いてやると。
また、震えた。
「れん…く…」
「…欲しいよ。我慢できない」
昨日までの
この身を焼き尽くすような獰猛な欲望は
今はない
あるのは
甘美な麻薬のような
じわりと内側から侵食してくるような欲望と
少しの焦燥感
あの日
おまえがあいつを思いながらヒートを迎えた記憶を
全て消してしまいたい
おまえのなか
全部俺で埋め尽くしてしまいたい
俺以外のやつなんて
頭の片隅にも置かせたくないんだ
「欲しい。楓」
額と額を合わせ、揺れる瞳を覗き込みながら言葉を重ねると。
困ったように目尻が下がって。
「…うん。来て…蓮くん…」
小さな小さな声で、俺の我が儘を許してくれた。
再び、ゆっくりと唇を重ね。
角度を変えながら、啄むようなキスをする。
シャツの裾から手を入れて、腹から胸へと滑らせていくと。
指先に、もう硬くなった小さな胸の先が当たって。
それを親指で押し潰すように捏ねてやると。
「んんっ…」
楓の身体は、魚みたいに跳ねた。
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