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火食鳥(ひくいどり)23 side龍
なんだ…?
なんで…?
なにが、起こってる…?
確かに、兄さんはずっと楓のことを一番に気に掛けていたし
楓だって、兄さんをいつも頼りにしていた
それは楓がうちの養子に入ってから
もうずっとそうで
俺にとっては当たり前の風景
でも違う
さっきの二人は
今までとは明らかに雰囲気が違った
まるでそれは……
「あ、れ…?兄さんと楓は…?」
モヤモヤしたものを抱えつつ、ダイニングへ降りていくと。
昨日までと同じように、テーブルには俺の分だけ夕食が乗っかってた。
「楓さんがまだ調子が良くないから、お部屋でお召し上がりになるそうですよ?」
小夜さんが、俺の前にホカホカのご飯の入ったお茶碗を置きながら、笑顔でそう言った。
今日のメインは、楓の大好物のクリームシチュー。
「そう、なんだ…」
せっかく、久しぶりにみんなで食べれると思ったのに…
期待していた分、がっかり感が大きくて。
せっかくの美味しい料理も、箸が進まなくて。
半分ほどで、食べる気が失せてしまった。
「ごちそうさま。残しちゃってごめん」
「あら…龍さん、熱でもあるんですか?」
「そういう訳じゃないけど…ごめんね」
心配そうな小夜さんに謝りつつ、逃げるようにダイニングを立つ。
さっきから、こんなんばっかだな…
階段を一つ登るたび、溜め息が出て。
そのまま自分の部屋に戻ろうとしたけど、無意識に足は、隣の楓の部屋へと向いてしまって。
でも、そのドアをノックする勇気が出なくて…。
ドアノブを持ったまま動けなくなってしまった俺の耳に、微かに軽やかな笑い声が届いた。
「ったく…んなこと、いつまでも覚えてんなよ…」
「んふふっ…だって、あんな蓮くん、めったに見られないもん」
漏れ聞こえてくるのは、楽しげな二人の声。
聞いてると、どうしようもなく寂しくなってきて。
俺だって兄弟なのに…
まるで、俺は存在してないみたいじゃん
そう思ったら、我慢できなくて。
ドアを、ノックしてしまっていた。
瞬間、話し声がピタリと止まって、嫌な沈黙が流れる。
背中を、冷や汗が流れ落ちた。
…しまった…
「はい?」
またあんな邪魔者を見るような目で見られるのかもと、後悔しながらドアノブから思わず手を離したら。
すぐ傍で聞こえてきた、楓の声。
「あ、お、俺っ…」
緊張からか、喉が張り付いたようになってて、声が裏返ってしまった。
「龍?どうしたの?」
「いや…どうしたっていうか…」
咄嗟のことで、ノックした言い訳なんか考えてなくて。
何て言おうか悩んでいる間に、ドアが開く。
「龍も、入る?どうぞ」
でも、そこに現れた穏やかに微笑んだ楓は、俺の知ってるいつもの楓で。
優しく俺を見つめる眼差しに、身構えてた身体からすっと力が抜けた。
「いい、の…?」
「もちろん」
招き入れるように大きく開いたドアの向こうには、ラグの上に胡座をかいて座ってる兄さんの姿。
「メシ、食った?悪かったな、ひとりにして」
そう言いながら申し訳なさそうに眉を下げた兄さんも、やっぱりいつもの兄さんで。
「ううん、大丈夫。じゃ、お邪魔しま~す」
「ふふ…なにそれ。いつもノックもしないで入ってくるのに」
軽やかな笑い声が、俺を促してくれて。
こっそり安堵の息を吐きながら、ドアを閉めた。
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