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火食鳥(ひくいどり)24 side龍

「なに話してたの?楓の笑い声、廊下まで聞こえてたよ?」 楽しそうだった会話に、俺も混ぜてもらいたくて。 さっきの笑い声の理由を訊ねた。 「ん~?これ。久しぶりに引っ張り出してみたんだ」 そう言って楓が俺に渡したのは、懐かしいアルバム。 楓がうちに来てから、小夜さんがお父さんに頼まれて俺たちの写真をきちんと整理したものだった。 それ以前の写真は、ほったらかしなのに。 「うわ~、久しぶりに見た。懐かしいな」 開いてあるページには、小学校高学年くらいの俺たち3人と春海がキャンプしてる写真が、綺麗にデコレーションされて貼られている。 「これ、なんだっけ?春海のお父さんにキャンプ連れてってもらったときだっけ?」 「そうそう。龍、覚えてない?夜、急に雨が降りだして、雷まで鳴ってさ。そうしたら、蓮くん怖がっちゃって…朝まで俺に、ずーっとしがみついてたの」 「だから、そんなの…」 「覚えてる覚えてるっ!兄さんでも怖いもんあるんだなって思ったもん!」 「おまえまで覚えてんのか…頼むから忘れてくれ!」 「んふふっ…忘れられるわけないじゃん。あの時の蓮くん、すごい可愛かったし。ねぇ、龍?」 「うん!あんな兄さん、見たことねぇっ!」 「可愛くないしっ…!」 珍しくあたふたしてる兄さんと。 珍しく楽しそうに兄さんを揶揄ってる楓と。 でも、戻ってきた日常の雰囲気になんだか安心しつつ。 微かな違和感が、頭の隅を過った。 『俺、楓と付き合ってるんだ』 あの時、春海は確かにそう言った。 『楓も、俺のこと好きだってそう言ってくれた』 真剣な眼差しに、嘘はなかったと思う。 でも…。 「川で魚釣りもしたね?蓮くん、釣った魚も触れなくて、俺が全部外したよね?」 「だから…なんで、そういうことばっか覚えてんだよ…」 春海のことが好きで、春海と付き合ってるはずなのに。 楽しそうに昔の思い出を語る楓の口からは、その場に一緒にいたはずの春海の話は一欠片も出てこなかった。 「だってさ、あの時見たことない蓮くんをたくさん見れたから、すっごい嬉しかったんだもん」 まっすぐに兄さんに向ける眼差しは、まるで恋人に向けるそれのようで。 「あっそ…でも、あの時釣った数は、俺のダブルスコア勝ちだったけどな」 「あーっ、なんでそういうこと言うかなっ!?意地悪!」 「おまえが俺の嫌なことばっか言うからだろ」 春海の言うこと、嘘だとは思わないけど… でも本当は あれを聞いた瞬間 すごく嫌だった 楓を盗られるみたいな気がして すごくすごく嫌だったんだ だから… 悪いね、春海 楓は俺と兄さんのものだから 「ん?龍?どうかした?もしかして、部活で疲れてる?」 不意に、楓の視線が俺を捉えて。 俺は慌てて笑顔を作った。 「そんなことないっ!ねぇ、他のアルバムも見せてよっ!」 今は、ようやく戻ってきたいつもの日常を、ぶち壊したくなかった。

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