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火食鳥(ひくいどり)26 side春海

「会長、ここはどうしますか?」 「蓮さんっ!美術部の展示なんですけどっ…」 何人もに一斉に話しかけられて。 だけど、それにてきぱきと答えながら一つ一つ問題を解決していく姿を、少し離れた場所からぼんやりと見ていた。 聖徳太子かよ… スゲー奴だとは思うけど やっぱ、ムカつく 「おい、春海。おまえ、ボケッと見てないで少しは手伝え」 俺の視線に気付いたのか、不機嫌そうに眉をひそめるから。 俺はわざと大袈裟に肩を竦めてみせる。 「俺のやれることは、もうとっくに終わってるよ。文化祭、もうすぐなのに誰かさんが無断で長いこと休むからさぁ…あとはみーんな会長の決済待ちだもん」 嫌みをふんだんに含めた言葉を返すと、蓮はぐっと言葉に詰まって。 深い溜め息を付きつつ、反論もせずにまた黙々と作業へと戻っていった。 蓮が休んでる間 俺ひとりで大変だったんだから 嫌みくらい言わせてもらわないと 「蓮さん、俺が手伝いますよ!」 「ありがとう、和哉。おまえ、いい奴だなぁ…誰かと違って」 遠回しな俺への嫌み返しを背中で聞きつつ、立ち上がる。 「おい、龍はどこ行ったんだ!?」 ドアに手を掛け、振り向くと。 『もう…蓮くん、ちょっと落ち着いたら?』 不意に耳の奥で響いた、柔らかい声。 驚いて生徒会室を見渡しても、その姿はどこにもなくて。 ピースが欠けたパズルみたいな風景から逃げるように、慌ててドアを閉めた。 楓が家に戻ったと龍に聞かされてから一週間 何度メッセージを送っても 相変わらず楓からの返信はなかった まだ体調が万全ではないとかで 学校はしばらく休むらしいと龍が教えてくれたけど 元気にしてるんだろうか 家でどんな風に過ごしているんだろうか どうして返事をくれないんだろうか 龍に聞いても 「元気だよ」とその一言だけで その他のことはのらりくらりと躱されていて 明らかにおかしい 俺には言えないなにかがあるんだろうか…? 蓮に聞けばわかるのかもしれないけど あいつにだけは 絶対に聞きたくないし… 楓のことを考えながら、歩いていると。 いつの間にか、音楽科の校舎へと足を踏み入れていた。 いくつか並んでいるレッスン室の一番奥。 楓がいつも使っていた部屋を、小窓から覗いてみるけど。 そこには、寂しげにポツンとピアノが置かれているだけ。 …悔しかったよね… あんなに練習してたのに 結局棄権することになっちゃって… 泣いてる、かな… もしかして そのことを悲しんで 俺に返事を書くことも出来ないのかな…? だったら 俺が慰めてあげたい 傍にいて 大丈夫だよって 優しく抱き締めて包んであげたい 楓… 今、どうしてる…? 心が楓の元へ飛んでいくと、もういてもたってもいられなくて。 今なら蓮も龍も家にはいない その事実が、俺の背中を強く押してくれて。 気が付いたら、愛する君の元へと駆け出していた。

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