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火食鳥(ひくいどり)30 side蓮
「え!?春海がっ!?」
「ええ。先程まで楓さんの部屋にいらっしゃって…夕飯もどうぞってお誘いしたんですけど…」
「ありがとう!」
小夜さんの話を遮って。
俺は階段を駆け上がった。
あいつ、途中でいなくなったと思ったら…!
「楓っ…」
ノックもせずに、楓の部屋のドアを開けると。
カーテンを閉じ。
夕闇に閉ざされたような薄暗い部屋のなか。
ベッドの傍で膝を抱え、小さくなって踞る姿。
後ろ手に鍵を閉め、灯りを点けて。
急いで駆け寄った。
「楓」
小さく震える肩にそっと手を掛けると、ゆっくりと顔を上げる。
その頬には、いくつもの涙の筋と。
「…蓮くん…」
瞳には、尽きることのない涙が溜まっていて。
なにがあったのか
聞かなくてもわかった
「…ごめん」
肩を引き寄せると、ぎゅっとしがみついてきた。
「…っ…く…ぅぅっ…」
「ごめん…俺が、話すべきだったのに…」
何度も話をしようと思った
だけど
楓がΩであることを隠したまま
二人の関係を解消するようにするにはどう話せば良いのか
俺自身もよくわからなくて
忙しさにかまけて
ついつい先伸ばしにしてしまって
結局おまえを一番傷付けるかたちになってしまった
春海が焦れていることは
痛いほど感じていたのに
俺は
何度同じ過ちを繰り返すんだろう
「ごめんな、楓…」
「っ…ちが…蓮くんが謝ることなんて、なにもないっ…悪いのは、俺、だから…」
「…違う…そうじゃない…」
楓はなにも悪くない
いや
悪い奴なんて誰もいない
悪いのは
悪いのは………
どうして
この世界にはαやΩが存在するんだろう
どうして
おまえがΩで生まれなきゃならなかったんだろう
どうして…
どうして……
問いかけても
答えなんて出るはずもないけど
なぁ楓
俺たちは
このやり場のない怒りを
どこへぶつければいいんだろう………
「…ごめんな…楓…」
ただ、謝罪の言葉を繰り返しながら。
俺はまた、楓を抱き締めることしか出来なかった。
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