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花魁鳥(エトピリカ)5 side龍
また、楓が入院した。
あの後、兄さんが飛んで帰ってきて。
楓の部屋をノックする音が聞こえたから、慌てて自分の部屋から出てみれば、兄さんが楓の部屋にちょうど入っていくところが見えて。
…なんで?
俺は拒否するのに、なんで兄さんはあっさり部屋に入れるの…?
俺と兄さんのなにが違うの?
怒りなんだか、苛立ちなんだか、寂しさなんだかよくわなんない、ぐちゃぐちゃした感情をもて余しながらベッドに横になっていると、しばらくしてバタバタと騒がしい音が聞こえてきて。
部屋の窓から外を見ると、楓を抱き抱えた兄さんが車に乗り込むのが見えた。
兄さんの首には、楓の白い腕が絡まっていて。
それを見た瞬間
目の前が真っ白になった
それから3日。
楓どころか、兄さんも帰ってこない。
相変わらず入院先は教えてもらえないし。
メッセージを送っても返信は返ってこず。
電話も無視される。
…変、だよな…
その間俺は、繰り返し3日前の楓の様子を思い出していた。
あの日、学校から帰った時の楓は、普通だった
それが豹変したきっかけは…
俺が抱き締めたとき
あの時、甘い匂いがして…
そういえば…
前にも同じ匂いを楓から感じたことがある
今回ほど強くはなかったけれど
あれはいつだったか…
記憶を辿って。
思い出した。
それは3ヶ月前
楓が最初の発作を起こして倒れる少し前だったことに
どくん…
鼓動が耳元で響いた
楓は心臓病なんかじゃない
だってそうだろ
本当に病気なら発作が起こってるのにあんな風に走ったり出来るはずがない
そして前にいなくなったのは3ヶ月前…
雰囲気が変わった二人
それはまるで恋人同士のようで
赤い唇
甘い吐息
甘い匂い
あの日感じた身体の奥底から沸き上がるような熱
バラバラだったピースが
パズルのように一つ一つ合わさって
ある仮定に辿り着く
「…嘘だろ…」
楓が
Ωだなんて
「…違う…」
そんなはずない
九条の家からΩが産まれたなんて
聞いたことがない
それに
お父さんも兄さんも
楓はβだって
性別検査だってやったはず
…全部、嘘だったのか…?
「…俺…だけ…?」
俺だけが
知らされていなかった…?
なぜ………
「っ…違うっ!!!」
何度も頭を振って、その仮定を追い出そうとするのに。
考えれば考えるほど、もうそれが真実だとしか思えなくなる。
…確かめなきゃ…
でもどうやって…?
二人の居場所を知ってる奴なんて
どこにもいないのに
悶々としながら、部屋を出ると。
ちょうど隣の兄さんの部屋から出てきた佐久間と、目が合った。
「あ…」
…見つけた
唯一の手がかり
佐久間はその手に大きなボストンバッグを抱えていて。
「し、失礼します」
目が合った次の瞬間には、ばつが悪そうに目を逸らした。
「待てよ」
「えっ…!?」
「…話が、あるんだ」
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