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花魁鳥(エトピリカ)6 side龍

「あ、あの…なにか御用でしょうか…?私、ちょっと急いでいるのですが…」 無理やり俺の部屋に引っ張り込むと、佐久間はビビった顔でそう言った。 「いや、用って言うか…おまえも大変だなって思ってさ」 俺はベッドに腰掛け、地べたに座らせた佐久間を見下ろしながら、ゆっくりと足を組む。 唇の端に、笑みを貼り付けながら。 「え…?」 「兄さんに口止めされてんだろ?しんどいよな」 「ええっ…もしかして、龍さんもご存知なんですか!?」 「ああ、もちろん。当たり前だろう?」 余裕そうな仮面を被り、かまを掛けてやったら。 「あぁっ、よかった!私、もう一人で抱えているのが辛くって…楓さんが本当はΩだったなんて、今でも信じられないですよっ!」 安心しきった顔で、あっさりとゲロった。 やっぱり……     「それに…怖いんです…」 そしてすぐに、不安そうに眉をひそめる。 「なにが…?」 「…どんどん、蓮さんがおかしくなっていくようで…」 「……」 「前はもっとクールで何事にも動じなくて…若いのにすごいなって、尊敬してたんですけど…最近の蓮さんは判断力が鈍ってるっていうか…特に楓さんのことに関しては、冷静さを欠いてるっていうか…」 「…ああ、そうだな…」 その意見には、深く頷く。 「楓さんがΩだから…なんて、そんなこと言いたくないですけど…蓮さん、楓さんのフェロモンに引っ張られ過ぎてる気がして…私はβだから、Ωの放つフェロモンを少しは感じても、そこまで引き摺られることはないんですが、αにとっては蓮さんほどの人をあんなに変えてしまうほどの恐ろしいものなんですか…?」 そう言って、佐久間はすがるように俺を見た。 まるで否定して欲しいかのように 「…そんなことはない。現に、俺は大丈夫だ」 だから、両手を広げて大袈裟にアピールしてやると、安心したように表情を緩める。 「じゃあ、どうしたらいいんでしょうか…前の蓮さんに戻ってもらうには…」 「…二人を、引き剥がすしかないだろう」 それしかない 「兄さんも、楓から離れればきっと元に戻る。…Ωの毒から離しさえすれば、兄さんのことだ、絶対に目が覚めるさ」 兄さんから 楓を奪うためには 佐久間が俺の顔を見つめたまま、ゴクンと喉を鳴らした。 「…でも、どうしたら…今の蓮さんが、楓さんをそう簡単に手放すとは思えないんですけど…」 「…兄さんと楓は、どこにいる?」 「目黒の、旦那様のマンションです」 「…病院に入院してるんじゃなかったのか?」 「あっ!そ、それはっ…すみません…」 しおしおと頭を下げるのを見下ろしながら、身体中にどす黒いものが広がっていくのを感じる。 最初から 楓を独り占めするつもりだったのか 俺にも 楓自身にも嘘を吐いて 計算高いあの人のことだ 全てわかっていたんだろう 楓にヒートがやってくること そうして Ωだったことにうちひしがれた楓を自分のものにしたんだ 「…まぁ、いい。そこから、兄さんだけを呼び出そう。その間に、俺が楓を別の場所に移す」 「呼び出すって、どうやって!?」 「…一つ、案がある」 スマホを手にすると、和哉の番号を取り出した。 『…はい。どうしたの?』 「あのさ、頼みがあるんだけど」 『なに?龍が俺に頼みごとなんて、初めてじゃない?怖いな』 クスクスと、楽しそうな笑い声は無視する。 「…兄さんを、呼び出して欲しい」 『…は?』 「一時間でいい。とにかくなんでもいいから、兄さんを引き留めてくれないか」 俺から連絡しようとしても全部無視される それは、俺がαで、俺のことを警戒してるからだ でも和哉ならβだし、春海のように楓に執着があるわけでもない むしろ、楓のことをあまりよくは思っていない そして、兄さんは和哉のことを最近信頼しているようだし… だから この役を任せられるのは、和哉しかいない 『引き留めるって…なに。なにする気?』 「…今は、言えない」 質問には答えないでいると、しばらくの沈黙の後、わざとらしい深い溜め息が聞こえてきた。 『…俺の貸し、高くつくよ?』 「ああ」 『三倍返しだよ?』 「わかった」 即答すると、また溜め息が聞こえて。 『…了解』 小さい返事のあと、ぷつりと通話が途切れた。

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