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花魁鳥(エトピリカ)8 side龍

知識としては知っていた 発情期のΩのフェロモンは αの理性なんて簡単にぶち壊してしまうこと でも知識として知ってるのと 実際に遭遇するのとは こんなにも違うものなのか 頭のどこかではこんなことしちゃいけないってわかってるはずなのに 自分で自分を止めることができない Ωの放つ甘い毒が 俺を狂わせていく───── 「嫌っ…龍、やめてっ…!」 手足をばたつかせ、必死で抵抗するのを。 全身で押さえつけた。 「おとなしくしろよっ!」 「嫌っ…嫌だっ…蓮くん、助けてっ…」 その赤い唇から、あの人の名前が出た瞬間。 頭に一気に血が上った。 パンッ…… 乾いた音が、響いて。 手のひらが燃えたように熱くなった。 大きく見開かれた瞳に、じわりと涙が浮かぶ。 白かった頬が、みるみるうちに赤くなって。 それを押さえた手は、ぶるぶると震えていた。 「…りゅ、う…どう、して…」 どうして…? それを、おまえが聞くのか…? 「…楓の…せいだろ…」 「え…」 甘い匂いで誘っているのは おまえの方なのに 全てを狂わせているのは おまえなのに 「ち、がうっ…俺は、なにもっ…」 「嘘ばっか」 小刻みに震えながら、怯えた顔で俺を見上げる楓に覆い被さって。 甘い香りを放つうなじに、鼻を近付ける。 酔いそうなほどの芳醇な香りに ゾクゾクして もうなにも考えられなくなる 「やっ…!」 「…こんな匂いさせて…誘ってんのは楓だろ…」 身を捩って逃れようとする肩を、強く押さえつけて。 「全部、あんたが悪い。あんたが…Ωだから。あんたのせいで、俺も兄さんもおかしくなるんだ」 耳元で囁いてやると。 びくんと大きく震えて、動きを止めた。 「全部…あんたのせいだ」 背けられた顔を無理やりこっちへ向かせて。 刻み込むようにそう告げると。 見開かれたままの漆黒の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。 「…りゅ、う…」 後から後から溢れでる真珠のようなその雫を見つめながら、ゆっくり身体を倒して。 「あんたが、悪いんだ」 トドメを指すように、もう一度言うと。 楓は、観念したように目を閉じた。 その拍子に、また新たな涙が零れて。 舌先で掬い取った雫は ひどく甘かった そのまま舌を這わせ、いっそう甘い香りを放つうなじをねっとりと舐める。 「んっ…」 その香りと同じくらいの甘い声が聞こえてきて。 身体がまた、熱くなった。 「ん…ゃっ…」 何度も舐めると、楓はぶるっと震えて。 氷のように冷たい指で、俺の二の腕を掴む。 「…お願い…噛まないで…他は、どうしたっていいから…龍の、好きにしていいから…だから、お願い…」 ぼろぼろと大粒の涙を溢しながら、必死に懇願する姿は、今にも捕食されそうな小さな兎のようで。 今まで感じたことのない獰猛な支配欲が、沸き上がってくる。 そんな姿も俺を煽るだけだってこと わかってんのか…? 「…わかった。約束するよ」 頷いてみせると、ほんの少しだけほっとしたように小さな息を吐き出して。 ゆっくりと目蓋を下ろすのと同時に。 硬く閉じていた足を、開いた。

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