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花魁鳥(エトピリカ)17 side蓮

楓が腹が減ったというから、なにか食べようかと散策していたら。 店の前に天使の羽のような看板のある、ハワイアンカフェを見つけた。 「ここにする?」 「うん!パンケーキ食べたい!」 甘いものに目がない楓は、即答でオッケー。 「じゃあ、先に写真撮ってからな」 先に店に入った客が、その看板の前で写真を撮ってるのを見ていた俺は、楓をそこに立たせる。 「えー?なんか、恥ずかしいんだけど…」 「いいから、いいから」 描かれた2枚の大きな羽の間に立たせると、楓の背中から本当に羽が生えているように見えて。 まるで本物の天使のようで 後でこっそり待ち受けにしようと思いつつ、何枚か写真を撮った。 「じゃあ、次は蓮くんね」 撮り終わると、今度は楓が俺の腕を引っ張って、同じ場所へ立たせる。 「いや、俺はいいから…」 「ダメ!天使の蓮くん、スマホの待ち受けにしたいんだもん!」 俺が思ってたことと同じことをさらりと言うから。 じわっと胸が熱くなった。 写真を撮り終え、店に入って注文した品が出てくるのを待つ間もずっと、楓は嬉しそうにさっき撮った画像を見ていた。 「蓮くん、本物の天使みたい。なんか、和哉が言ってたことすごくわかる」 「え?」 「和哉、蓮くんのこと大天使ミカエルだって言ってたの。蓮くんの背中には、他の人とは違う大きな翼があるって」 「…あいつはちょっと、俺に変なフィルター掛けすぎなんだ」 「ふふふっ…でも、俺も思うよ。蓮くんには、翼があるって」 俺にはおまえの方がずっと天使に見えるけど… なんてことは、気恥ずかしくて口に出来なくて。 「俺がミカエルなら、楓はガブリエルだな」 代わりにそう言うと、目を真ん丸にした。 「ええっ!?そんなわけないじゃん!」 「ガブリエルには、神は我が力って意味があって、神の言葉を伝えるメッセンジャーって役割があるんだ。俺は、おまえのピアノの音にそれを感じるけどな」 「…蓮くん…」 俺の言葉に、嬉しそうな、でもどこか哀しそうな複雑な顔をする。 「…じゃあ、ミカエルにはどんな意味があるの?」 「神のごとき者」 「蓮くんにぴったりじゃん」 「そうか~?」 「そうだよ」 「…おまえも、変なフィルターかかってんな…」 その時、ちょうどパンケーキが運ばれてきて。 「うわーっ!美味しそうっ!」 楓の顔がぱぁっと明るくなった。 さっきの表情が心に引っ掛かりつつ、また楓が笑顔になったことにホッと息を吐く。 「じゃあ、食べるか」 「うんっ!いただきま~す」 タワーみたいなパンケーキに怯みつつ、幸せそうに食べる楓に癒されながらなんとか食べ終えて。 併設された天然石のアクセサリーを売っている店へ、なんとなく足を向けた。 女の子ばかりの店内を、若干の居心地の悪さを感じながら回っていると。 カラフルな色の石で作られたアクセサリーたちの中に、黒い石で作られたシックな感じのブレスレットが目に留まった。 黒い石の中にひとつだけ、違う色の石が填められている。 「誕生石ブレスレットだって。楓は12月生まれだから、ターコイズだな」 緑色の石のついているブレスレットを手に取って、その細い手首に着けてみた。 まるで最初から楓のものだったように、それはピタリと填まって。 なんだか、運命的なものを感じてしまった。 「…買ってやろうか、これ」 「え?いいの?」 よほど気に入ったのか、手首に填まったそのブレスレットを角度を変えながら繁々と眺めている楓にそう言うと。 嬉しそうに目を細める。 「あぁ」 「じゃあ、俺が蓮くんのを買う。蓮くんは9月だから…ラピスラズリ。これだね」 楓は、深い藍色の石のついたブレスレットを取り、俺の手首に填める。 「すごい。ぴったりだ」 それはやっぱり、最初から俺のものだったようにピタリと俺の手首に填まって。 俺は楓のブレスレットを。 楓は俺のブレスレットを買って。 店の外へ出て、海の見えるベンチに座り、それを互いの腕に填め合った。 「なんか…結婚式の指輪の交換みたい」 照れたようにそう言った楓は、でもすごく幸せそうで。 「俺は、それでもいいけど?」 真顔でそう返すと。 「もう…バカ…」 頬をうっすらと赤く染めて、ふいっと顔を背けるから。 辺りを見渡し、人影がないことを確認して。 その頬に、掠めるだけのキスをした。 「ちょっと!こんなとこでっ…」 「誓いのキス、だろ?」 耳元で囁くと、じろりと睨みながら怒ったように唇を尖らせて。 でも、ゆっくりと目蓋を下ろす。 俺はブレスレットを填めた腕で、楓のブレスレットを填めた手を握り締めると。 その尖らせた唇に自分のを重ねた。

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