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花魁鳥(エトピリカ)24 side龍

「えっ!?」 小夜さんの言葉に、耳を疑った。 「それ、本当なの?」 「はい…確証はまだないんですが、恐らくは間違いないかと…」 楓が 妊娠してる…!? 「それは…」 「…蓮さんの、子…ですよね…?」 一瞬、俺の子どもかと思ったけど。 小夜さんの言葉がすぐにそれを打ち消す。 「…そう、だろうな…」 俺が無理やり抱いたのは二回だけ。 兄さんはもっとずっと楓を抱いてるわけで。 確率的には兄さんの子どもの可能性がずっと高い 「どうしましょう…このこと、どうやって蓮さんに伝えたら…」 身体の奥底から溢れる、どろどろとした真っ赤なマグマのようなものを無理やり飲み下していると。 小夜さんが泣きそうな顔で呟いた。 …兄さんに? 冗談じゃないっ…! 「龍さん!どうにかして、蓮さんが日本に戻って来られるように出来ませんか!?今の楓さんをアメリカに連れていくことは無理ですから、蓮さんに戻ってきてもらわないとっ…」 「いや、その前に」 焦った顔で、早口で捲し立てる小夜さんを、遮る。 「とにかく、楓の妊娠が本当かどうか、調べる方が先だ。兄さんに連絡するのは、それからじゃないと」 「あ…そう、ですね…すみません、私ったら気が動転しちゃって、先走ったことを…」 「いや…小夜さんが心配になるのは当たり前だ。今の楓には、いろんなことが起き過ぎてるから…」 理解ある素振りを見せてやると、ほっとしたように息を吐いて。 「本当に…沖縄の学校に転校だなんて…そんなこと、今の楓さんには耐えられませんよ…」 驚くことを、さらりと口にした。 「…沖縄…?なに、それ…」 「さっき旦那様が仰ってたんです。沖縄の全寮制の学校に、転校させるって…」 「っ…冗談じゃないっ!」 ようやく邪魔な奴がいなくなったのに 楓を盗られてたまるかっ…! 「…そんなこと、絶対にさせない…」 そのためには 俺はどうするべきか… 答えはひとつ 楓を 俺の番にするしかない 本当の兄弟だって構うものか 俺には九条がどうこうなんて 端から関係ないし 楓を噛んで 俺のものにしてしまえば お父さんだって楓を俺から引き離す口実はなくなるはず でも… その前に…… 「とにかく、今は楓の身体のことを一番に考えよう。俺が、医者に連れていってくるよ」 「私も一緒に行きます!」 「いや…俺一人で大丈夫。小夜さんは、楓のためになにか食べられそうなものを作ってやってくれるかな?」 「…はい…わかりました…」 優しげに見える微笑みを乗せてやんわりと断ると、残念そうに頷く。 「じゃあ、すぐにでも行ってくる。なにかあってからじゃ、遅いからね」 「よろしくお願いします」 どこか寂しそうな小夜さんを残し、楓の部屋に向かった。 「楓、入るよ」 声を掛け、ドアを開けると。 楓はベッドの上で壁に背を預け、小さくなって座っていた。 まるで死人みたいに光のない瞳で 「楓…病院にいこう?肩の傷も化膿してきてるし、熱も下がらないからさ…ちゃんと、お医者さんに診てもらおうよ?」 肩を抱き、優しく声をかけても。 焦点の合わない目でぼんやりと見返すだけで。 だけど。 「それに、ね…もしかしたら…ここに赤ちゃん、いるかもしれないから」 「………え?」 そっと腹に手を添えて告げると。 真っ暗な瞳に、光が宿った。

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