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花魁鳥(エトピリカ)26 side楓

「おまえと兄さんは、従兄弟じゃなくて異母兄弟なんだ」 勝ち誇ったように不敵に笑う龍の言葉に。 頭を強く殴られたような衝撃を受けた。 「…きょう…だい…」 「そう。これでわかっただろ?その子は、産まれてきてはいけない子どもなんだよ」 衝撃で。 頭が割れるように痛む。 でも。 同時に今まで頭にかかっていた靄のようなものが、一瞬で消え去って。 全てがクリアに見えた。 なぜ、お父さんは世間から隠れるように生きていたのか なぜ、母親の話を一度もしなかったのか なぜ、一人で死んだのか なぜ、九条のお父さんが謝ったのか なぜ、俺を見て涙を流したのか そうして、脳裏に鮮やかに蘇ってきたのは。 俺を見て微笑む、哀しそうで、でもどこか幸せそうなお父さんの姿。 ああ…そっか… お父さんはずっと 俺を命懸けで守ってくれていたんだ 命懸けで愛した人との間に出来た この命を 目の奥が熱くなって。 堪えきれない涙が溢れる。 両手でお腹を包み込むと。 宿ったばかりの命の脈動を感じた気がした。 …絶対に、守ってみせる お父さんが俺を守ってくれたように 蓮くんとの愛の証を 消すことなんて絶対に出来ない きっと お父さんもこんな気持ちだったんだよね…? 「…絶対に、堕ろさない」 顔を上げて。 真っ正面から龍を見た。 ここで負けるわけにはいかない。 「楓っ!おまえっ…!」 龍の顔に激しい怒りが浮かんだけど。 「龍は、俺を殺すの?」 そう訊ねると、ぐっと言葉に詰まる。 「な、に…?」 「龍は、俺を殺したいの?」 「ばっ…バカなこと言うなよっ!おまえを殺したりなんか、するわけないだろっ!俺はっ!その腹の子をっ…」 「この子は、俺だよ」 「…は?」 「実の兄弟の間に出来た、禁忌の子ども…それは、俺自身だ」 「…あ…」 そのことには気が付いていなかったのか、龍の目が驚愕に見開かれた。 「このお腹の子が許されないと言うのなら、俺の存在自体が間違っていることになる。この子を殺すってことは、俺を殺すことと同じだよ」 「それ、は…」 「俺は、俺を殺すことなんて出来ない」 強く言い切ると、龍の顔が苦しげに歪む。 「…ダメだ…」 「じゃあ、俺も殺して」 「…っ…楓っ…!」 「この子を殺すなら、俺も殺して」 この子は 絶対に守り抜いてみせる その固い意志を込めて、龍を見つめると。 龍は苦しげに呻いて、頭を両手で掻き毟った。 「そんなことっ…出来るわけないだろっ!俺だって、おまえを愛してるんだよっ…」 「だったら、この子を殺さないで」 「…っ…くそっ…!」 吐き捨てるように叫んで。 龍は俯いたまま、乱暴にドアを開けて出ていった。 「…蓮くん…」 そのドアを見つめながら、お腹に手を当てて。 そっと閉じた目蓋の裏に浮かんだのは、今は会えない愛しい人の笑顔。 「…蓮くん…この子を守って…俺に、力をちょうだい…」 祈るように言葉を紡ぐと。 手を当てたところが、ほんの少し温かくなった気がした。

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