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花魁鳥(エトピリカ)28 side楓

重い目蓋を開けると。 真っ白な、染みひとつない天井が目に入った。 ここは…? 初めて見るそれに、違和感を感じていると。 「楓さんっ!」 小夜さんの小さな叫びのような声が、耳に飛び込んでくる。 指一本動かすのすら億劫なほどの気怠さのなか、なんとか頭を動かして声のした方を向くと。 小夜さんが、涙でぐちゃぐちゃの顔で俺を見つめていた。 「…小夜…さん…?」 「楓さん…すみません…本当にすみませんっ…」 そう言って。 ベッドの傍に踞り、声を上げて泣き出してしまう。 「どう…したの…?」 頭が霞がかったようにぼんやりして、うまく思考が動かない。 「すみません…すみません…」 「小夜さん…?」 鉛がついたように重い腕を持ち上げて、その震える肩に触れようとした時。 「楓、目が覚めたのか」 龍の声が、聞こえてきた。 「龍さんっ…!」 ガバッと身体を起こした小夜さんは、まるで龍から俺を守るように立ちはだかる。 「退いてください、小夜さん」 「どうして…どうして、こんなひどいことが出来るんですかっ…!」 「…退け」 叫んだ小夜さんを、低く唸るような声で制して。 片手で、その小柄な身体を押し退けた。 よろけた彼女には目もくれず、真っ直ぐに俺の傍へやって来た龍は。 俺を見下ろし、にこりと笑う。 ゾッとするほど冷酷な瞳で。 嫌な、ものが背筋を這った。 まさか…… 「楓、気分はどう?」 「…」 「もう、大丈夫だから。手術、ちゃんと成功したから」 「…手術…って…」 「もう、邪魔なモノはいなくなったから。だから、楓はまた、自由だから」 その言葉が耳に入ってきた瞬間。 心臓を鷲掴みされたような痛みが走り。 喉の奥がきゅっと絞られたようになって。 苦しさに、見悶える。 「ううぅっ…」 「楓さんっ!」 伸びてきた手を、咄嗟に払い除けた。 「…あか…ちゃん…おれ…の…どう…したの…」 いやだ… 信じない… 信じたくないっ…… 「…っ…龍っっ…!!」 「…もう、いないよ。子どもは、処分した」 残酷に告げられた言葉に。 息が止まった 「楓さんっ…!」 どうして… 「楓さんっ!楓さんっ!しっかりしてくださいっ!」 どうして…? 「かえ…して…おれ、の…あかちゃんっ…」 「…無理だ。あの子どもは、もういない」 「っ…うそだっ…」 どうして 殺したの あのこは 俺なのに 「りゅ、うっ…!」 無理やり身体を起こして、力の限りその腕を掴んだ。 「あんな子ども、産んだところで育てられるはずがなかった。これが、最善の選択なんだ」 だけど、龍は冷酷な瞳で見下ろすだけ。 「…かえ、して…」 「心配しなくても、楓のことは俺が守ってやる。俺の…番として」 「っ…い、やっ…」 「俺の番になれば、沖縄になんて行かなくていい。ずっと一生、楓の好きなピアノを弾かせてやることだって出来るんだから」 「いやだっ…かえしてっ…おれの、あかちゃんっ…」 「っ…!いい加減にしろよっ!」 怒りを含んだ叫び声が、響いて。 次の瞬間、頬に激しい痛みが走った。 衝撃で、俺はまたベッドに沈んだ。 「龍さんっ!やめてくださいっ!」 「おまえが生きる道は、もうそれしか残ってないんだよ!おまえに選択肢なんてないんだ!いい加減、自分の立場を考えろっ!」 吐き捨てるような言葉を残し。 龍が部屋を逃げるように出ていく。 「…ごめん…なさい…」 「…楓さん…」 守れなくて ごめんなさい…

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