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不如帰(ホトトギス)6 side志摩

半信半疑だったけど、他に行くところなんてなくて。 優しそうな方に手を引かれ、近くのコインパーキングに停めてあった高そうな黒い車の後部座席に乗せられた。 「こいつ…大丈夫なの?よく知らない人にホイホイついてきちゃってさ…警戒心、なさすぎだろ。だから、あんなイカれたクソ野郎に捕まっちまうんだろ」 運転席に乗り込んだ厳つい方が、眉をひそめながら僕を振り返る。 「もう…そういうこと言わない。その顔でそんなこと言ったら、この子が怖がっちゃうでしょ?大丈夫だよ。この人顔は怖いけど、根はとっても優しい、いい人だから」 優しそうな方は、僕の隣に乗って。 車に乗せてあったタオルを僕の頭に掛けて、頭をわしゃわしゃと拭くと、ぎゅっと抱き締めた。 その人の身体からは すごくいい匂いがした それはおばあちゃん家の庭に咲いていた 梔子(くちなし)の甘い匂いに似ていた 「悪かったな、怖い顔で…」 「あれ…この子、熱がある」 拗ねたみたいな顔した厳つい方を無視して、優しそうな方が僕の額に手を当てる。 「…結構、高そう。もしかしたら、だいぶ長いこと雨の中を歩き回ってたのかも」 熱…? あ、そっか… だから頭がボーッとしてなにも考えられないのか… 「仕方ない…うちに連れてくか」 「ふふっ…最初から、そのつもりだったくせに」 「…うるせぇな…おまえはいちいち、一言多いんだよ」 二人の掛け合い漫才みたいな、楽しそうな会話を聞きながら。 くたりと力が抜けて。 その人の胸に寄りかかってしまった。 仲…いいんだな… 僕も 圭吾とはずっとこんな感じだったのに… ずっと親友でいられると思ってたのに どうしてこうなっちゃったんだろ… どうして 僕はΩなの…? どうして…… 「…ぅっ…ぅぅぅっ…」 泣き出した僕の背中を、大きな手が宥めるように擦ってくれる。 「我慢しなくていい。いっぱい、泣いていいよ。大丈夫だから…」 その優しい声に促されたみたいに。 僕は声をあげて泣いた。 泣いて、泣いて、泣き疲れるまで泣いて。 いい匂いに包まれて、背中を優しく撫でられていると。 ゆっくりと眠りがやってくる。 「…いいよ、眠って。大丈夫だから。俺たちは、君にひどいことは絶対にしないから」 大丈夫って… ホントかな… だってあいつも最初はそう言ったんだ… 大丈夫 優しくするって なのに……… でも Ωだって言った 俺たちもΩだって それが本当なら 信じていい、かも…… 「…おやすみ…」 眠りに落ちる寸前 澄んだ歌声の 優しい子守唄が聞こえた気がした

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