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不如帰(ホトトギス)7 side志摩

あったかくて ふわふわしててきもちいい… あれ…? 僕、家に帰ってきたんだっけ…? 目を開くと。 知らない男の人が僕を覗き込んでいた。 「………っ!!!」 「あ、目が覚めた」 びっくりし過ぎて、声も出せないでいると。 その人は僕のおでこや首を、無遠慮にペタペタと触ってくる。 やっ…やめてっ! 触んないでっ…!! 心のなかで叫んでも、口はパクパクと空気を吐き出すだけしかできなくて。 喉が、絞められたように狭まって、空気が入ってこなくなる。 嫌だっ… 怖いっ……! 「うん。熱も下がったみたいだし、特に異常は見当たらないね。見かけによらず、案外丈夫だなぁ…って、あれ?どうした?」 「てんめぇっ!なに怯えさせてやがるっ!」 息が出来ずにもがいていると。 いきなり目の前にいた人の脇腹に、膝蹴りが飛んできて。 「どぅわっ…」 その人が部屋の隅まで吹っ飛んだのと入れ替わりで、あの厳つい顔の人が僕の視界に入ってきた。 「ちょっと那智さん…やり過ぎ…」 そのすぐ後から、あのいい匂いの人がやってきて。 その姿を見た途端、ふっと苦しいのが消える。 「大丈夫?ごめんね、びっくりさせて」 柔らかい微笑みを向けてくれて。 また、その大きな手で髪を撫でてくれて。 「あ…ううん…大丈夫…」 僕は大きく息を吐き出した。 「那智ぃ…おまえ、自分の番に向かって飛び膝蹴りはないだろぉ…」 「てめぇが志摩を怯えさせるからだろうがっ!」 「…え…?」 なんで、名前… 「怯えさせるって…ちょっと診察してただけじゃん…」 「もう…那智さん、静かにして。志摩が怖がるから。ただでさえ顔は怖いんだから…」 「柊っ!おまえ、顔が怖いって言い過ぎだぞっ!」 「だってホントのことだもん」 「あ、あのっ…」 思わず、言い合う3人の間に割って入ってしまった。 「ん?どうしたの?」 「えっと…なんで、僕の名前…」 「あぁ…ごめん。荷物、見せてもらっちゃったんだ。生徒手帳に、名前書いてあったから…勝手なことして、ごめんね」 「あ…」 そんなもの、入れてたんだっけ… どうしよう… 家に電話とかされちゃったのかな… 連れ戻されちゃうのかな… あの家に戻されたら 僕は、また… 「…心配しなくても、おうちには連絡してないから」 無意識にガタガタと震えだした身体を。 優しい腕が、抱き締めてくれる。 「うっ…くぅっ…」 「志摩!?息、ちゃんとしてっ!」 また息ができなくなった僕の背中を、何度も擦ってくれて。 「大丈夫だから…ここにいる人は、君に危害を加えない。君の嫌なことはしない。だから…安心して?大丈夫だから…」 何度も何度も、優しい声でそう言ってくれて。 なんでだろう… 初めて会った人なのに どんな人かよく知らないのに この人の匂いに包まれて 優しい声で大丈夫だって言ってくれたら すごく安心する… 「大丈夫…大丈夫だからね…俺が、守ってあげるから…」 「…う、ん…」 少し息が出来るようになって。 おずおずと背中に手を回すと。 子どもをあやすように、ポンポンと優しく頭を撫でられた。

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