109 / 566
不如帰(ホトトギス)13 side和哉
「蓮さん、起きて。朝だよ」
「う…ん…」
カーテンを開け、燦々と降り注ぐ朝日を部屋に取り入れても。
蓮さんは小さく呻いただけで、壁側に寝返りを打ち、また小さくイビキをかき始めた。
「昨日、だいぶ飲んでたもんなぁ…」
大方、あいつのこと思い出してたんだろうけどさ…
だって昨日は
10年前にあいつがいなくなった日だから
忘れられないのはわかる
そいつがあなたの『運命の番』だったのなら尚更だ
でも…
「もう、死んでる」
思わず声に出すと、寝ているはずなのにぴくんと動き。
無意識だろう、左腕にはめられてる黒いブレスレットを右手で握った。
俺の知らない間にその手首に付けられたそれを
あなたは肌身離さず大切にしている
そんな安物
誰よりも眩い輝きを放つあなたには似合わないのに
聞いたことはないけど
きっとそれはあいつに繋がるもの
じゃなきゃ
あなたがそんなに執着するはずがないんだ
あなたの心の中を占めるのはいつだって……
「…いつまで…この人の中に居座るんだよ…」
10年前
あいつが突然姿を消して
あなたは自分が受け継ぐはずだった全ての権利を放棄した
留学予定だったハイスクールへも行かず
引っ越したばかりのアパートからも姿を消したらしい
九条の御当主は血眼になってあなたを探し出し
考え直すよう何度も説得したみたいだったけど
あなたは頑として首を縦に振らなかったと聞いた
高校を卒業した俺はどうしてもあなたの傍に行きたくて
親の反対を振り切ってアメリカへ渡った
ようやく再会できたとき
あなたは小さなホテルのベルボーイとして働きながら
名もないコミュニティーカレッジに通っていた
日本の経済界を動かすほどの人になるはずだったあなたが
どうしてこんなところでこんな惨めな仕事をしなきゃならないんだと
悔しくて悲しくて
全てを狂わせたあいつが憎くて堪らなかった
だけど
あなたはやっぱりミカエルだった
どんな場所にいても
決して腐らずに真っ直ぐ上だけを見て
努力を惜しまず
誰よりも高みへとのぼっていく
俺が知っているあなたとなにも変わっていなかった
働きながら大学に編入し
そこを首席で卒業して
大きなホテルに引き抜かれたあなたは
今はそのホテルの副支配人にまで上り詰めた
その大きな翼を広げ
どこまでも広い世界を自由に羽ばたくあなたの
今、一番近くにいて
今、一番想ってるのは間違いなく俺なのに
あなたの中にはいつも
あいつの影がある
どうやったらその影を追い出せるのか
もう長いことそんなことばかりを考えていたけれど
最近ようやくわかった
あなたの心の中から
あいつがいなくなることなんてないってこと
でも
どんな強烈な思い出でも
いつかは色褪せ
少しずつ記憶の彼方へと埋もれていく
あいつにはもう新しい景色は作れない
カラフルな色に彩られた新たな景色は
少しずつセピア色のそれを塗り替えていけるはず
俺には
いや
俺たちには
この先の未来があるんだから
「蓮さん、朝だよ」
もう一度揺さぶってみたけど、少し眉をしかめただけで、深い眠りから覚めてくれない。
右手はしっかりと、その安物のブレスレットを握り締めたままで。
あいつの夢でも見てるの…?
ジリジリと、胸の奥が焦げる。
俺は唇を噛み締めながらベッドの上にあがり、どこか幸せそうにも見える顔で眠る彼のハーフパンツのゴムに手を掛けた。
アンダーパンツごと、そっとそれをずり下げ。
現れた、繁みの奥で緩く勃ちあがっているモノを、口に咥える。
「…ん…」
ぴくんと小さな反応が返ってきたけど、まだ目は開かない。
少し汗の匂いのするモノの先端を舌で舐めながら、搾めた唇でゆっくりしごいてやると、みるみるうちに硬さが増してきて。
「っ…は…ぁ…」
甘い吐息が、聞こえた。
ともだちにシェアしよう!