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不如帰(ホトトギス)13 side和哉

「蓮さん、起きて。朝だよ」 「う…ん…」 カーテンを開け、燦々と降り注ぐ朝日を部屋に取り入れても。 蓮さんは小さく呻いただけで、壁側に寝返りを打ち、また小さくイビキをかき始めた。 「昨日、だいぶ飲んでたもんなぁ…」 大方、あいつのこと思い出してたんだろうけどさ… だって昨日は 10年前にあいつがいなくなった日だから 忘れられないのはわかる そいつがあなたの『運命の番』だったのなら尚更だ でも… 「もう、死んでる」 思わず声に出すと、寝ているはずなのにぴくんと動き。 無意識だろう、左腕にはめられてる黒いブレスレットを右手で握った。 俺の知らない間にその手首に付けられたそれを あなたは肌身離さず大切にしている そんな安物 誰よりも眩い輝きを放つあなたには似合わないのに 聞いたことはないけど きっとそれはあいつに繋がるもの じゃなきゃ あなたがそんなに執着するはずがないんだ あなたの心の中を占めるのはいつだって…… 「…いつまで…この人の中に居座るんだよ…」 10年前 あいつが突然姿を消して あなたは自分が受け継ぐはずだった全ての権利を放棄した 留学予定だったハイスクールへも行かず 引っ越したばかりのアパートからも姿を消したらしい 九条の御当主は血眼になってあなたを探し出し 考え直すよう何度も説得したみたいだったけど あなたは頑として首を縦に振らなかったと聞いた 高校を卒業した俺はどうしてもあなたの傍に行きたくて 親の反対を振り切ってアメリカへ渡った ようやく再会できたとき あなたは小さなホテルのベルボーイとして働きながら 名もないコミュニティーカレッジに通っていた 日本の経済界を動かすほどの人になるはずだったあなたが どうしてこんなところでこんな惨めな仕事をしなきゃならないんだと 悔しくて悲しくて 全てを狂わせたあいつが憎くて堪らなかった だけど あなたはやっぱりミカエルだった どんな場所にいても 決して腐らずに真っ直ぐ上だけを見て 努力を惜しまず 誰よりも高みへとのぼっていく 俺が知っているあなたとなにも変わっていなかった 働きながら大学に編入し そこを首席で卒業して 大きなホテルに引き抜かれたあなたは 今はそのホテルの副支配人にまで上り詰めた その大きな翼を広げ どこまでも広い世界を自由に羽ばたくあなたの 今、一番近くにいて 今、一番想ってるのは間違いなく俺なのに あなたの中にはいつも あいつの影がある どうやったらその影を追い出せるのか もう長いことそんなことばかりを考えていたけれど 最近ようやくわかった あなたの心の中から あいつがいなくなることなんてないってこと でも どんな強烈な思い出でも いつかは色褪せ 少しずつ記憶の彼方へと埋もれていく あいつにはもう新しい景色は作れない カラフルな色に彩られた新たな景色は 少しずつセピア色のそれを塗り替えていけるはず 俺には いや 俺たちには この先の未来があるんだから 「蓮さん、朝だよ」 もう一度揺さぶってみたけど、少し眉をしかめただけで、深い眠りから覚めてくれない。 右手はしっかりと、その安物のブレスレットを握り締めたままで。 あいつの夢でも見てるの…? ジリジリと、胸の奥が焦げる。 俺は唇を噛み締めながらベッドの上にあがり、どこか幸せそうにも見える顔で眠る彼のハーフパンツのゴムに手を掛けた。 アンダーパンツごと、そっとそれをずり下げ。 現れた、繁みの奥で緩く勃ちあがっているモノを、口に咥える。 「…ん…」 ぴくんと小さな反応が返ってきたけど、まだ目は開かない。 少し汗の匂いのするモノの先端を舌で舐めながら、搾めた唇でゆっくりしごいてやると、みるみるうちに硬さが増してきて。 「っ…は…ぁ…」 甘い吐息が、聞こえた。

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