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不如帰(ホトトギス)15 side和哉

ほんのり苦いその欲を飲み下すと。 いきなり両肩を強く掴まれ、くるんと世界が反転した。 「わぁっ…」 ぼすっと背中にマットレスの衝撃がきて。 反射的に目を閉じたら、直後に噛みつくようなキス。 「んんっ…」 薄く目を開くと、もう欲情に染まった瞳が超至近距離で俺を見下ろしてて。 熱い舌が口のなかに入ってきたのを合図に、再び目を閉じる。 そのまま唾液まで奪い尽くすような深いキスをして。 「ん…ぁ…」 首筋にざらりとした舌の感触が移ると、思わず声が出た。 蓮さんが、笑った気配がした。 Tシャツを乱暴にたくしあげられ、胸の尖りに歯を立てられる。 「あぁっ…」 甘い痺れが、背筋を駆け抜けた。 「ふ…だいぶ反応よくなったよな?最初に抱いたときは、マグロみたいだったのに」 楽しそうな響きの声に、思わず目を開くと。 傲慢さを滲ませた、支配者の瞳が俺を見つめている。 ゾクゾクする これこそが 俺が一番欲しかったもの やっぱりあなたはこうでないと 「マグロって…ひどい。だってしょうがないじゃん。初めてだったんだもん」 俺は、その時のことを思い出しながら頬を膨らませてみせた。 無理やり蓮さんのアパートに押し掛けるような形で同居を始めて あの手この手を使って 口説き落とそうとした 何年も頑として首を縦に振らなかった蓮さんが ようやく折れてくれたのがちょうど一年前の今日 長い長い片想いがようやく実を結んだことで舞い上がっていた俺は 触れられるだけでもう達してしまいそうで でもそんな自分が恥ずかしくて 奥歯を噛み締めて漏れ出そうになる声を必死に噛み殺した それが蓮さんにはそんな風に映ってたなんて 考える余裕もなかったんだ 「まぁ、それはそれで?可愛かったけどな」 だけど。 まるで、そんな心の奥底まで見透かしていたように、蓮さんは口角を上げてニヤリと笑う。 途端、急激な恥ずかしさが込み上げてきて。 それを誤魔化すために、両足を腰に巻き付け、その逞しい身体を強く引き寄せた。 「もう…そんなのどうでもいいからさ。早くシテよ」 吐息と共に耳元で囁いてやると、ふるっと小さく震える。 その瞬間、漆黒の瞳が獣のそれに変化した。 「…自分で脱いで、待ってろよ」 薄く笑ったまま、ベッドを降り。 クローゼットの奥にしまってあるローションとゴムを手に取り、焦らすようにゆったりとした足取りで戻ってくる姿を見つめながら、俺は自分からズボンとパンツを脱ぐ。 「…足」 再びベッドにあがり、不遜な態度で俺を見下ろしながら一言だけ放たれた言葉に従って、足を開く。 蓮さんは満足そうに微笑んで、開いた足の間に身体を滑り込ませ。 片手でボトルの蓋を開けると、見せつけるようにとろっとした中身を手のひらにゆっくり垂らして。 俺の秘部へと、その手を伸ばした。 「…ん…ぁっ…」 まだ冷たい液体を入り口に刷り込むように触れられると、びくっと身体が跳ねる。 「…入れるぞ?」 「…うん…」 反射的にぎゅっと目をつぶった瞬間。 長い指が、俺の中に入ってきた。 「んんぁっ…」 自分の身体に異物が押し入ってくるこの感覚だけは、いつまで経っても慣れることができない。 もし、これがあいつなら… こんなのなんてことないのかな…? 男を受け入れる身体を持ったあいつなら… 「…和哉、目ぇ開けろ」 不意に浮かんだ馬鹿げた考えに、つい唇を噛むと。 優しい指先が、目蓋を撫でる。 促されて目を開くと、優しい眼差しが見下ろしていて。 「…バカだな、おまえ」 呆れたように目尻を下げた蓮さんは、蕩けるような優しいキスをくれた。

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