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翡翠(かわせみ)14 side楓

耳には、ぐちゅぐちゅと自分の後ろから聞こえる卑猥な水音と。 自分の唇から漏れる、猫の鳴き声みたいな嬌声と。 男の荒い息遣いだけが、聞こえてくる。 「ねぇっ…も、やだぁっ…」 うつ伏せにされ、高く腰を掲げられた獣みたいな体勢で、長い時間しつこいくらいに指で拡張されて。 早くその怒張したモノで訳もわからないくらいに突いて欲しいのに、いつまで経っても与えてもらえないもどかしさに、頭がおかしくなりそうだった。 「早くっ…ねぇ、早く入れてっ…」 長い指でぐしゃぐしゃにかき混ぜられ、止めどなく溢れる蜜が太股を伝ってシーツへと落ちていく。 「すごいな…堪らない」 男は浅い呼吸を繰り返しながら、ようやく俺の中から指を引き抜いた。 「あぁっ…」 そんな刺激にさえも、快感が生まれる。 乱暴な仕草で、仰向けにされて。 両足を胸に突くほど折り曲げられた。 男の熱い吐息が、落ちてくる。 燃えるように熱い塊が、後ろに押し当てられて。 息を、飲んだ。 なのに。 「…柊…」 そう呼ばれた瞬間。 すぅっと冷たいものが、背筋を降りていった。 「…い、やっ…」 違う… この男じゃないっ… 「柊…?どうした?」 「いやっ!やだっ!」 逃れようと身を捩ったけど、強い腕に押さえつけられる。 「柊っ!?どうしたんだっ!?」 「いやだっ…違うっ…」 俺は 俺の、名は…… 「…教えてくれるか?君の、本当の名前を」 『……楓……』 「………かえで………」 「かえで、か…良い名だ…」 『楓って名前、俺は好きだよ?』 目の奥がじわっと熱くなって。 熱い雫が、目尻から零れた。 「泣くな、かえで」 『…泣かないで…俺が、ずっと守ってあげるから…』 ……蓮くん…… 「かえで…いいこだ…」 『楓…俺の、楓…』 優しくてあったかい手が、髪を撫でてくれる。 手を伸ばせば、ぎゅっと強く捕まえてくれる。 「ずっと…僕の側にいろ…」 『…これから先も…ずっと一緒に生きよう…』 「……うん……」 ……いる…… ずっと、あなたの側に…… 硬いものを、もう一度押し当てられて。 足を、開いた。 「…いいか…?」 「…う、ん…来て…?」 蓮くん… 早く来て…… グッと、先端が身体を抉じ開けて入ってきた瞬間。 雷に打たれたような強烈な快感が、全身を貫いた。 「あぁぁぁっ…!」 目の前で、火花が散って。 精が、噴き出した。 「…っ…くっ…!」 反射的に浮き上がり、びくびくと震える腰を強く引き寄せられ。 奥の奥まで、熱い塊が入り込んでくる。 「やっ…まってぇ…まだっ…あっ…ああぁっ…」 「駄目だ。待てないっ…!」 切羽詰まった声。 肌と肌のぶつかる音。 獣のような乱れた息。 雨のように落ちてくる汗。 触れあった場所から移る、マグマのような熱さ。 噎せかえるような甘い花の匂いと。 それを書き消してしまうほどの濃密な柑橘系の香り。 全てが渾然一体となって 俺を底なしの快楽の渦へと沈めていく 「あっあっ…やっ…また、イク、イっちゃうっ…!」 「かえでっ…一緒にっ…」 何度目かの絶頂がやって来て。 真っ白な闇が、俺を飲み込む瞬間。 『……愛してる……楓……』 蓮くんが、微笑んだ。 「……ぅ…ぁ…れん…く…ん……おれ…も……」 愛してるよ ずっとあなただけを…… そのまま、俺の意識は真っ白い闇に溶けた。

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