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小夜啼鳥(ナイチンゲール)19 side春海

「あの…柊さん、大丈夫ですか?」 その時、控えめなノックの音が聞こえて。 ひょこっと男の子が顔を出した。 いつもテーブルにドリンクを運んでくれる、志摩、という子だった。 「志摩、おまえ平気か?」 その声に、ようやく視線を楓から外したオーナーが、志摩くんに問いかけると。 彼はクンクンと仔犬のように部屋の匂いを嗅いで。 「大丈夫みたいです。入ってもいいですか?」 そう言いながら、するりと身体を部屋の中に滑り込ませてきた。 そして、ソファの上の楓を見つけると、突然怒りの形相になって駆け出し、俺を力の限り突き飛ばした。 「痛って…!」 「こら、志摩っ!」 「あなたっ!柊さんになにをしたんですかっ!」 顔を真っ赤にして怒る彼の視線は、チラチラと眠る楓へと向けられていて。 その視線を辿っていくと、楓の剥き出しの下半身が…。 「わぁっ!違うっ!これは、そうじゃなくてっ…!」 慌てて、ジャケットを脱いでそれを隠す。 「そうじゃないってなんですかっ!」 猫が威嚇するように、ふーふーと荒い息を吐きながら志摩くんは俺を睨む。 「や、だから、これはそのっ…」 「βのあなたが、柊さんのヒートをどうにか出来るはずないでしょっ!この人には番になる予定のαさんがいるんです!余計なことしないでっ!」 そのまだ幼さを感じるピンク色の愛らしい唇から飛び出した言葉に、頬を平手打ちされたような衝撃を食らった。 「え…」 番…? その言葉に、ふと先日の和哉の言葉が頭を過る。 『俺たち、日本に帰るかもしれないから』 まさか、蓮がもうここへ…? 「おい、こら、志摩。おまえ、余計なことしゃべんじゃねぇ」 衝撃に、二の句が告げないでいると。 肩を怒らせて俺を睨み続ける志摩くんの頭に、オーナーがゲンコツを落とした。 「いたーいっ!」 「バースのことは、軽い気持ちで口にすんなって教えたろうがっ!αだろうがβだろうが、分け隔てなく楽しんでいただく。それがこの店のしきたりだってこと忘れたのか!それに、俺が藤沢様に柊を頼んだんだ!おまえがこの方にそんな口きく資格はねぇぞっ!」 「うぅっ…ごめんなさい…」 ドスの効いた声で、怒鳴られて。 びくびく震えながら涙目になって謝る志摩くんが、ちょっと可哀想に見えてくる。 「あの…俺なら、気にしてないですから。βの俺じゃ、かえ…柊さんを助けてあげられないことは、嫌ってほどわかってますし」 恐る恐る止めに入ると、その鋭い眼差しを今度は俺に向けてきた。 「…あんたは黙っててくれ。俺は今、躾をしてるんだ」 「あ…すみません…」 「まぁまぁオーナー、その辺で許してやって。志摩は僕の大切な番を守ろうとしてくれただけなんだろうから」 その迫力に気圧されて、思わず謝った俺の声に被せるように、また違う声が後ろから聞こえてきて。 「斎藤様、もう着いたんですか?」 「ちょうど、この店へ向かうところだったんだ。大事になる前に収まって、よかったよ」 振り向くとそこには、最近テレビでよく見かけるようになった環境大臣が、穏やかな笑みを湛えて立っていた。

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