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小夜啼鳥(ナイチンゲール)22 side楓

シャワーを浴びるために、浴室へ入って。 鏡に写し出された自分の姿に、言葉を失った。 全身を掻き毟ったような、いくつもの引っ掻き傷と それを上書きするようにつけられた、いくつもの赤い吸い痕 ここまでの惨状は、さすがに今までもなかった。 「…ふ…」 笑いが、込み上げた。 熱いシャワーを頭からかけると、身体中がピリピリとした痛みを訴える。 それは俺に与えられた罰のようで。 ボディーソープを泡立てたタオルで、ゴシゴシと力を入れてその傷を洗った。 浴室を出ると、そこにはきちんと畳まれた清潔な下着とパジャマが置いてあった。 「…伊織さん…」 さりげない優しさに、目頭が熱くなって。 眉間に力を入れて、込み上げる涙が零れないようにしながら、髪を乾かしてリビングへと戻る。 「さっぱりしたかい?」 ダイニングテーブルに食事を並べていた伊織さんが、俺の姿を見つけて微笑んだ。 「伊織さん、あの…」 「先に、ご飯にしよう。お腹、空いてるだろう?君は先に座ってて」 だけど、俺が口を開くと、ふいっと顔を背け、背中を向けてしまう。 「…はい」 きっと 伊織さんは俺の言おうとしてることに気付いてる その広い背中から、そう感じて。 俺はおとなしく、椅子に座った。 テーブルに並べられたのは、ゴロゴロと大きな肉の塊が入ったビーフシチュー。 それにライスとサラダが付いている。 そう言えば、煮込み料理が得意だって言ってたっけ… ボリューム満点の肉のサイズにちょっと怯みつつ、二人で向かい合って手を合わせて。 シチューをスプーンで掬って、口に入れた。 大きなお肉は、その見た目に反して口のなかでホロリと柔らかくほどけて。 濃厚で、でも優しい旨味が口のなかいっぱいに広がった。 「どう?」 「美味しいです。とても」 不安そうな伊織さんの言葉に、笑顔で答える。 食事中の会話は、それだけで。 目を合わせることもなく、黙々とシチューを平らげた。 食事の後は、コーヒーを淹れてくれて。 向かい側に座った伊織さんは、自分の分のコーヒーをゆっくりと口に運ぶと。 一つ、大きな深呼吸をした。 まるで覚悟を決めるように 「…うん。じゃあ、君の話を聞こうか」 ようやく合わせた瞳は、ゆらゆらと大きく揺れている。 その瞳に、俺の心まで揺らぎそうで。 俺も一つ深呼吸をすると、お腹にぐっと力を込めて。 口を開いた。 「…ごめんなさい、伊織さん。俺…あなたの番にはなれません。俺には…運命の人がいるんです」 瞬間、伊織さんの瞳が、驚愕に大きく見開かれた。 たとえ香りが似ていたとしても 彼は蓮くんじゃない 偽りの安らぎに身を任せようとしても 本能はそれを拒否してしまうのだと 痛いほどにわかってしまったから 俺の全ては 蓮くんだけのものだから

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