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小夜啼鳥(ナイチンゲール)24 side春海

あの日から 楓のあの血を吐くような叫び声が耳にこびりついて離れない 『殺してっ…早くっ…』 10年前 俺たちの前から姿を消してから 君はどんな人生を歩んできたんだろう 俺はただ自分の身勝手な欲望だけで 君が生きていることを望んでいたけれど それは正しいことだったんだろうか もしかしたら 君にとって生きるということは 死ぬよりも苦しい道だったんじゃないだろうか 楓… 俺たちはあの時 いったいどうすればよかったんだろう…… 「はぁ…」 考えても仕方のないことを、何度も考えてしまって。 深い溜め息が出た。 手の中のスマホの画面に写し出されてるのは、和哉とのトーク画面。 何度も連絡しようとして まだ出来ずにいる 楓が生きていることを 蓮に伝えなきゃって思ってるのに… でも… あいつは楓を捨てたんだ 楓の身に何が起こったのか 知らないはずがない 和哉から聞いてないはず、ないのに あいつはアメリカから帰ってこなかった あいつは楓の運命の番なのに たとえ、親父さんに押さえつけられていたとしても あいつの力なら、どうにでも出来たはずだ 現に、あいつはあっさりと九条を捨てた なのに… 運命の番なんて αにとったらそんな簡単に捨てられるくらいの存在なんだろうか だとしたら 運命の番なんて、この世に存在する意味があるんだろうか 楓にとってあいつが運命の番だったことは もしかして、すごく不幸なことだったんじゃないんだろうか…… 考えれば考えるほど、理不尽な怒りが沸々と湧いてきて。 怒りのままに画面を閉じようとした、まさにその瞬間。 『久しぶり』 和哉からのメッセージが、いきなり浮かび上がった。 「うわっ…」 思わず、周りを見渡してしまう。 俺のこと…どっかから見てた…? もしかして、ホントに日本に帰ってきてる!? まさかと思ってじっくり隈無く見てみたけれど、夕飯時のレストランは、楽しげに食事を嗜む人々ばかりで、俺のことを気にするような人は、いない。 『日本はどう?暑い?』 『こっちは暑いけど、湿度が低いからそっちよりマシかも』 『あーでも、この間スッゴい竜巻が目の前を横切ってさぁ~死ぬかと思ったわ』 「なんだよ…びびったじゃん…」 続けて届いたメッセージに、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。 その能天気な内容に、また苛立ちが沸き起こる。 人の気も知らないで… いいよな、おまえは 押し掛け女房で、初恋の相手を見事にゲット出来たんだから そりゃ、大変だったね 適当にそう打ち始めた瞬間。 『日本に帰ったらあのジメジメ地獄かぁ…やだなぁ』 先に届いたメッセージに、思わず指を止めた。 日本…? まさか、本当に帰ってくるつもりか…? 今さら…? なんのために…? 『本当に帰ってくるの?』 震える指で、ようやくそれだけを打ち、送信すると。 『やっと、蓮さんが戻る気になってくれてさ。来月、二人で戻るよ』 『今、引っ越しの準備でヤバい』 返ってきたメッセージに、思わず息を飲んだ。

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