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小夜啼鳥(ナイチンゲール)27 side春海
亮一は、俺から楓をガードするように腕の中にしっかりと抱きかかえたまま、ウイスキーを傾ける。
途中、俺が会話に参加しようとすると、まるで犬でも追い払うようにシッシと手を振られ。
時々、楓の申し訳なさそうな視線に微笑みを返しながら、仕方なく二人の会話を黙って聞いてるしかなかった。
なんか…楓、あんまり顔色良くないな…
ピアノ弾いてるときはそうでもなかったけど
なんかちょっと元気無さそうだし…
少し痩せたのはヒートが原因なのかな…?
ヒート中のΩは食事が疎かになるって聞いたし
そして、あの赤い痕…
チョーカーと襟のほんの少しの隙間から見えるそれに
あまり気付く人はいないかもしれないけど
キスマークとも違う、あれは…
「あーっ、もう!なんだよっ!」
薄めに作ってもらった焼酎の水割りをチビチビ飲みながら、楓を観察してると。
突然亮一が苛立った声を上げて、ポケットからスマホを取り出した。
「呼び出し?」
「くっそ!病院になんて戻ってられるか!柊!ちょっと待ってて!すぐ戻ってくるから、絶対他のテーブル行かないでよっ!」
俺の質問には答えず、楓にだけそう言い残して。
亮一はフロアを走って出ていく。
「…時間外にも、呼び出されるんですか?」
「まぁ、ああ見えてあいつ、超優秀な外科医だからね。よく救急に呼び出されてるよ」
「そうなんですか」
にこりと笑った楓は。
でもすぐにその笑みを削ぎ落として、真っ直ぐに俺を見つめる。
「この間は…申し訳ありませんでした。私、よく覚えていないんですが…藤沢様に、なにか失礼なことしませんでしたか?」
「ううん、大丈夫だったよ」
不安げに揺れる瞳を見返しながら、微笑みを張り付けて首を横に振る。
「身体は?もう、大丈夫なの?」
聞きたいことは山のようにあるけれど、今はそれを聞いてもいい時なのかわからなかったから、当たり障りのないことを訊ねると。
「はい」
楓は簡潔にそれだけを言って。
なにか言いたげに、じっと俺を見つめた。
「柊、さん…?」
その眼差しの意味を、図りかねて。
俺も静かにその黒翡翠の瞳を見つめていると。
楓の唇が、微かに震えた。
「…藤沢様…今夜、空いてますか…?」
「え…?」
「アフター…受けてもらえませんか…?」
思いもかけない言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
「それって…」
過度なボディータッチが禁止されてるこの店で
唯一ホストに触れられるシステム
亮一が何度お願いしても
一度も首を縦に振ってくれたことないって嘆いてた
それを、βである俺に…?
どうして…?
不意に、この間の艶やかな楓の姿が脳裏に浮かび上がる。
あの時…
俺は本気で君を抱こうとした
本当は
君が欲しくて欲しくて堪らないんだ
「…いいの?俺で」
βの俺で、いいの…?
確かめるように問うと、目を伏せて小さく頷く。
そうして、ベストの胸ポケットから一枚のカードを取り出して、俺に差し出してきた。
そこにはホテルの名前とルームナンバーが書かれていた。
「これ…」
「…そこで、待っててください。…亮一さんには、御内密に…」
驚いて、もう一度表情を伺ったけど。
楓は俯いたままで、その真意を図ることは出来なかった。
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