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小夜啼鳥(ナイチンゲール)33 side志摩

“カチャン” 鍵の開く音が、聞こえて。 僕は、うつらうつらと微睡んでいたソファから、慌てて身を起こした。 カーテンを閉め忘れた部屋には、燦々と朝の光が差し込んでいる。 「柊さんっ!?」 玄関へと続くドアを勢いよく開くと、ちょうど靴を脱ごうとしていた柊さんは、びっくりした顔で振り向いた。 「え?志摩?起きてたの?」 「おかえりなさいっ!」 その胸に体当たりするように抱きつくと、よろめきながらも抱き止めてくれる。 「大丈夫だった!?あの人に、なんにもされなかった!?」 「なんにもって…」 「こんな時間まで帰ってこないから…もしかして、監禁とかされたんじゃないかって…怖かった…」 『遅くなるから、先に寝てていいからね』 いつもの、アフターに向かう時に掛けてくれる言葉の響きが、今日はいつもと違った。 緊張してるみたいに、硬い声。 相手は、あの藤沢って人なのはわかってた。 柊さんがあいつにこっそりカードキーを渡してるところ、見てたから。 あんなβのどこがいいんだろ? 伊織先生の方が、αだし格好いいしお金持ちだし 地位も名誉もある 見た目だって、αっぽい貫禄のあるイケメンの伊織先生と線が細いけど端正な顔立ちの柊さんが並ぶと、映画のワンシーンみたいでドキドキして溜め息が出るほどステキだし 絶対、伊織先生の方が柊さんを幸せにしてくれるのに… 深夜のつまんないテレビをつけたまま、そんなことを考えながら柊さんを待ってたけど、いつもなら帰ってくるはずの明け方になっても帰ってこなくて。 お兄さんたちが言ってた、柊さんは過去のなにかをネタにあいつに脅されてるんじゃないかって話が、時間を追うごとに真実味を帯びてくる気がして。 お昼までに帰ってこなかったら、那智さんに助けを頼もうって、そう決めてたんだ。 「…ごめん、そんな心配かけて。でも、春くん…藤沢さまは、そんな方じゃないから」 「でもっ!柊さんを泣かせたんでしょ!?」 間近で見た柊さんの目元は、いつもよりずっと赤い。 「…これは、彼のせいじゃないよ。彼を、悪く言わないで。お願いだから」 そう言って、薄く笑った柊さんに感じた、違和感。 「…柊、さん…?」 なんだろ… なんか、いつもとちょっと違う…? 上手く言えないけど… なんか、いつもよりもっと、表情が柔らかいような…? いつも柊さんが纏ってる薄いヴェールのようなものが なくなってる…? 「志摩、お腹空いてる?朝ごはん作るよ。心配させたお詫びに、志摩の好きなフレンチトーストにするね」 ポンと頭を軽く叩いて僕を離し、リビングへ向かう柊さんの背中を見つめながら。 奇妙な胸騒ぎを感じた。

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