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猿喰鷲(さるくいわし)4 side蓮

「お疲れさまでした」 無事にレセプションが終わり。 身体を覆う疲労感に深く息を吐きながら、ソファの上に腰を下ろすと。 和哉が上機嫌な顔で、冷たいお茶の入ったコップを差し出した。 「ありがとう」 なぜそんなに機嫌がいいのかは、聞かなくてもわかるから。 一言だけお礼を言って、お茶を口に含む。 「でも、さすがですね、蓮さん。皆さん、蓮さんが日本に戻ってきたこと、すごく喜んでましたね!」 完成披露のレセプションに招待した人の中には、まだ俺が九条の家にいるときに父のお供で出席したパーティーで顔を合わせていた人が何人もいて。 皆、一様に俺に歓迎の言葉をかけてくれた。 「よく、戻ってきた」 「待っていたよ」 と。 その言葉が嬉しくないと言ったら嘘だけど。 でも、今の俺には荷が重すぎる言葉でもあった。 「…あんなのは、社交辞令だろ。真に受けるほど、子どもじゃないよ」 「そんなこと、ないです!みんな、本当に蓮さんのことを待ってたんですよ!」 「…」 熱弁する和哉に、苛立ちを感じて。 話を断ち切るために立ち上がる。 「じゃあ、後の事は頼む」 「はい。…あ、俺も終わったら、家に行ってもいいですか?」 「…もう、家には来るなと言ってるだろ」 「そういうんじゃ、ありません。今晩は、2人だけでお酒が飲みたいだけです」 「これから、斎藤大臣と約束がある。もしかしたら泊まるかもしれない」 「え…あ、そうなんですか…」 俺の言葉に、一瞬がっかりした表情を浮かべ。 「斎藤伊織は、ゆくゆくは総理に、と言われている人ですからね。太いパイプを作っておいて、損はありませんから。ゆっくり話して、仲良くなってきてください」 でもすぐに、また上機嫌に戻った。 「…そんなんじゃ、ないよ」 「そうなんですか?じゃあ、なんです?」 「さぁ…」 曖昧な答えに、和哉が不思議そうに首を捻るけど。 ビジネスのため。なんて大義名分なんかなくても、あの男と話をしてみたい。 純粋にそう思っていることは、わざわざ伝える必要はないだろう。 「それじゃあ、お先」 わざと時間を気にする振りをして時計を確認し、部屋を出る。 そのままエレベーターに乗り、スイートルームに泊まっている大臣の元を訪ねた。 「やぁ、お疲れさま」 笑顔で出迎えてくれた大臣は、もうシャワーを浴びたようで、部屋に備え付けのバスローブを身に付けている。 「…申し訳ありません」 「なにが?」 「サイズ…小さいですよね。今度は大きめのサイズを用意しておきます」 その裾が、大柄な体格の大臣の膝上までしかないのを確認し、頭を下げると。 「是非、そうしてくれたまえ」 笑いながら、部屋の中へと俺を招き入れた。

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